2010年9月11日土曜日

修道女フィデルマの叡智(ピーター・トレメイン) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

7世紀のアイルランドを舞台に、若くして「法廷弁護士(ドーリィー)」の資格を持つ修道女フィデルマが活躍するミステリ短編集です。日本語翻訳版のために独自の編集がされていて、フィデルマシリーズの入門書として最適な構成となっています。



ちょっといい仲のワトソン役「エイダルフ修道士」が出てこないのは残念ですが、短編ならではの雰囲気と切れ味は期待通りでした。以下、各話の感想です。

■聖餐式の毒杯
ローマ巡礼中にたまたま訪れた小協会で殺人事件が起こります。母国ならともかくローマではなんの権限もないフィデルマですが、ドーリィーについて聞き及んでいた修道院長の依頼により、事件の解決に取り組むこととなります。いかにも玄人うけしそうな、端正な作品ですが、聞き取りが延々と続くところなど、ちょっと退屈なところもあるかもです。

■ホロフェルネスの幕舎
夫と息子殺しの嫌疑をかけられた幼なじみの依頼を受け、フィデルマが真相解明に乗り出します。この話しは本書で一番よく出来ていると思います。短編にもかかわらずどんでん返しの連続、そして意外な真相。また、族長とその後継者(ターニシュタ)というこのシリーズの典型といえる舞台設定も、当時のアイルランド文化を感じさせる良い雰囲気を醸し出しています。

■旅籠の幽霊
フィデルマが吹雪の中たまたま行きあった宿で、幽霊騒ぎの謎に挑みます。「嵐の山荘」的臨場感を感じさせる、ちょっと異色の一品です。英題「Our Lady of Death」の意味が、ラストで事件の真相と共に明らかになります。とても素晴らしいタイトルなのですが、さすがに日本語訳で同様の意味を持たせるのはちょっと難しいでしょうね。

■大王の剣
当時のアイルランドは5カ国にわかれていて、大王(ハイキング)とはその5カ国のすべてを統べる王の意味。要するに一番偉い人ですが、フィデルマがその厄介な後継者争いに巻き込まれることとなります。フィデルマが偉い人達を相手に物怖じせず敢然と立ち向かう姿が実に格好いいです。ミステリとしても「ホロフェルネスの幕舎」同様にめまぐるしい展開を見せて大変面白かったです。

■大王廟の悲鳴
「大王の剣」から3年後が舞台となります。歴代の大王が葬られる立入禁止の墳墓から悲鳴が聞こえ、確認すると人が死んでいるのが発見されます。たまたま重要な会議のため王城を訪れていたフィデルマが事件の解決に挑むことになります。お墓を舞台にちょっとホラーチックな展開ですが、ミステリとしては「大王の剣」ほどではなかったかも。

現代並みに整備されたアイルランドの法を司る人物が主人公のため、古代を扱う作品でありながら全然古臭さを感じさせません。やはりこの作品の雰囲気は短編に向いていると思います。独特の概念が結構たくさん出てくるため、このシリーズを読まれる方は最初に少し我慢していただく必要があるかもしれません。時代背景がわかってくるにつれておもしろさが増して行くので、途中で放り捨てずに読みすすめていただきたいなと思います。

評価:★★★☆☆

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