五賢帝のなかでも最重要といって良いトライアヌスですが、現存の資料が少ないため筆者が大変苦労されています。とてもバランスの取れた指導者という印象ですね。
軍事についても政治についても、天才とまではいえずとも高い水準でこなし、真面目で誠実でありながら必要とあれば冷酷に対処することも出来る。ひょっとするとカエサルよりも理想的な皇帝といえるかもしれません。あまりとんがりすぎたために、出る杭が打たれてしまったわけですから。
属州出身としては初の皇帝ですが、親の代からの元老院議員ではあったわけですから、ローマ人的にはさほどの抵抗感はなかったのかもしれませんね。もっとも大儀は必要のようで、由緒正しい血統の先帝ネルヴァから養子という形で後継者指名を受けての襲位となります。
アウグストゥス時代より定められていた領土を初めて拡張した人物です。ダキア戦役については、カエサルに習ってか皇帝自らの筆による「ダキア戦記」が執筆されたそうですが、現存していないのは残念なことです。トライアヌス円柱に描かれた絵から逐一想像を叙述に変えていく作者の労には敬服の念を感じました。純粋な小説ならもっと好き勝手できたんでしょうけどね。
史実として残されているものが少ないうえ、本人が真面目で立派過ぎることもあって、ちょっぴり読み物としては面白みに欠ける感なくもありません。ただ、インフラ工事にかける情熱についてはちょっと興味深かったです。父が土木屋だったので、立派な橋とかみると「おっ」と思ってしまうのです。
男児がうまれなかったため、従兄弟の子であるハドリアヌスが養子として後継者となります。暗黒の時代を経て実力重視が再認識されながらも、周囲を納得させるためにはやはり血のつながりが重要となるようです。
評価:★★☆☆☆
2010年9月10日金曜日
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