2010年9月17日金曜日

虚栄の肖像(北森 鴻) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

花師にして絵画修復師の「佐月恭壱(さつききょういち)」シリーズ第2弾。せっかくレギュラーになりそうな良い感じの女性キャラも登場してきたところですが、このシリーズも筆者の早世により最後となってしまいました。



北森作品には珍しくねっとりとしたシリーズです。テーマはエロスとなるでしょうか。といっても、別にいやらしい描写があるわけではありません。美術にはそういう側面もあるでしょうというところを突き詰めた感じです。

本書は3編の中短編からなります。冬狐堂やら朱明花のほかに、元カノの「倉科由美子」やら花師のバイト志願「九条繭子」など、女性関係にもバラエティが出てきて、これから一層面白くなりそうだっただけに、これで終わりとは残念です。

綿密な取材に基づく詳細な描写と薀蓄が相変わらず素晴らしいですが、愛川晶さんの解説によれば、大胆なトリックについては筆者の全くの創作ということもあるようです。素人が取材して書いたものとは思えないリアリティを感じさせてくれます。

お話し自体は基本的に面白いのですが、このシリーズの文体が実は私ちょっと苦手です。台詞にかぎかっこをつけず、地の文とわざと混同させるような書き方をしているところが良くみられるのですが、どうもそれが読みにくくて。現実と虚構の不確かさを表現してるのかなというところは想像できるのですが。

冬狐堂「宇佐見陶子」の名前がぼやかしてあるのもあまり意味が分かりません。「例の女」だとか「冬の狐」だとか表現されているのですけれど、何かイニシャルトークみたいな嫌らしさを感じてしまいます。

多分、筆者の意図とは反するのでしょうけれど、私はこのシリーズについては叙情的な部分よりもレギュラーキャラによるストーリーの展開により重きを置いていました。それだけに、ここで終わりとは本当に残念でなりません。

評価:★★☆☆☆

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