30歳で医学部に入学しなおし、37歳で研修医となった筆者の自伝的小説です。医療現場の実態など勉強になるところもありますが、なにより読み物として面白いです。それだけ筆者の経験が面白いものだったということなのでしょう。
フィクションと現実半々といったところでしょうか。30代にして医者を志した筆者の動機については実際に読んでいただくとして、本書のみどころはやはり「年増の新人研修医」という存在の特異さにあるかと思います。
といっても、年配であることからくるハンデといったものはそれほど感じさせません。体力がないとか就職先がないとか色々自虐的なことは書かれていますが、あまり悲壮感漂うものでもありませんし。
本書の特徴を決定付けているのは、筆者の「大人の余裕」ではないかと思います。医療現場の不合理さを語るにもどこか一歩引いたようなスタンスのため、なんとなく客観性を感じさせて、すんなりと腑に落ちる気がするのです。
川渕氏のプロフィールを検索してみたところ、本文中の京都の大学は京都大学で、東京の大学は東京大学のことのようです。ぼかして書いてあるのはなぜなのでしょうか。嫌味な印象を避けるためかもしれませんね。
本書は筆者の実体験をもとにした複数のエピソードから構成されていますが、これがエッセイでなくちゃんと面白い小説になっている点こそ、私がもっとも評価したいところです。
医療の現場を知るという意味で、医学部志望の方や入院患者の関係者の方などにも本作品は貴重だと思いますが、単に面白い本が読みたいという向きにも自信を持ってお勧めできる一冊かと思います。
評価:★★★☆☆
2011年4月25日月曜日
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