神保町の古書店街でヒロインが失恋の痛手を癒していく表題作およびその続編の2本構成となっています。実に良質な雰囲気小説でありながら、各話ともしっかりストーリーが作りこまれていて、とても私好みな作品でした。
二股かけられていた彼氏に対して何も言えず、会社も辞めて引きこもる「貴子」。実家に戻るか叔父「サトル」の世話になるかの選択を母から迫られて、やむなく興味もない古本屋に居候することとなりますが、一冊の本との出会いにより、彼女を取り巻く風景がガラッと変わっていきます。
とにかく神保町への愛情に溢れる一冊といえるでしょう。本書は「ちよだ文学賞」の大賞受賞作なのだとか。<すぼうる>という名前の喫茶店などが出てくる辺り、にやりとしてしまう人も多いのではないでしょうか。
正直なところ私の読書は新刊本メインなので、あまり古本屋のお世話になることはないのですが、それでも神保町の雰囲気は大好きなので、ちょくちょく足を運んでいます。九段下で降りて靖国で手を合わせて、そのあと古書街をひたひた歩いていくのが、私の休日を過ごす黄金パターンの一つです。
神保町や古書への愛情溢れる雰囲気自体秀逸ですが、私が本書を評価したいのは、ストーリーの起伏がしっかりして、純粋に読み物として楽しめるようになっているところです。雰囲気でごまかしてなんとなく終わってしまうような話があまり好きではないのですが、本書ではその心配は全くありません。
二話目は、家を出て行方知れずとなっていた義理の叔母「桃子」が森崎書店に帰ってくるお話で、こちらもかなり良い感じなのですけれど、一話目でせっかく友達になった「トモちゃん」が出てこなかったのだけは、ちょっぴり残念だった気がします。とても良いキャラだっただけにもったいないなぁと。
全編を通して淡々とした語り口で紡がれていくお話は、決して刺激的とはいえませんが、それがまた話の舞台である神保町にとてもマッチしていたように思います。さほど癖もないのでどなたが読んでも楽しめると思いますが、とりわけ神保町が好きな方には強くお勧めしたい一冊です。
評価:★★★★☆
2011年4月18日月曜日
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