銀行の支店を舞台にしたミステリ短編集。まさに筆者の原点といったところでしょうか。苦い後味の作品が多く、いかにも大人向けな感じです。ミステリ分はあまり期待し過ぎないほうが良いかもしれません。
小さな信用金庫や地味な支店などの泥臭い融資業務が主なテーマとなっています。どの話もアイデアというより抒情で読ませる、なかなか渋い味わいの構成です。
私も就職活動で地方銀行に内定をもらったことがあり、結局迷った末にIT系の企業を選んだのですが、本書の話も私のもう一つの可能性だったかもしれないなどと考えると、なかなか感慨深いものがあります。
もっとも、悲哀や鬱屈を感じさせる作品のほうが多いので、本書を読んで銀行業に憧れを持つ人は少ないかもしれません。そういう影の部分も傍目でなら格好いいと思うのですが、自分がやりたいかとなるとちょっと。
その点は我らがIT業界も同様で、ブラックな側面ばかり取り上げられがちですが、実際のところはどんな仕事にも楽しさはやりがいはあるんじゃないかと思うんですけどね。
正直なところ、ハッピーエンド好きな私としては苦手なテイストの作品が多かったですが、4話目「芥のごとく」や5話目「妻の元カレ」などは、かなりぐっと迫るところのある、質の高い作品だったと思います。
表題作の6話目「かばん屋の相続」は、明らかに一澤帆布がモデルですね。話の仕掛けとしては面白いですし、割と溜飲の下がる結末ではありますが、ちょっと設定的に安直だった気もしないでもありません。
ミステリとしての仕掛けについてもあまりピンと来ない作品が多かったですが、哀愁漂う大人の味が好きな方や、銀行における支店業務の雰囲気を知りたいかたには良い作品ではないかと思います。
評価:★★☆☆☆
2011年4月12日火曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿