2010年7月31日土曜日

『君を想いて』(ジル・チャーチル) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

事件についてはまぁいつも通りですが、このシリーズで一番期待している日常生活の進展があまり見られなかったのが残念です。とはいえ、普通に面白かったですけれど。



今回、兄妹は養護施設で掃除や洗濯物運びなど結構な重労働をすることになります。育ちのいい二人には良い経験かもしれませんが、テンポラリーのバイトシリーズになっちゃうんですかね。そろそろ派手な展開がほしいかもです。

事件については、いろんな場所の都合が収束していくのは相変わらず見事ですが、なんとなく解決がもやもやした印象もあります。正直、ミステリとしてのできはシリーズ中一番酷かったかも。

ただ、読むのをやめようという気にならないのは、やはり登場人物の魅力のおかげでしょうか。華々しい展開がないのが物足りないとはいえ、逆にあわただしさのない安定感こそがコージーミステリの醍醐味ともいえるかもしれません。

評価:★★☆☆☆

関連レビュー:
『風の向くまま』(ジル・チャーチル)
『夜の静寂に』(ジル・チャーチル)
『闇を見つめて』(ジル・チャーチル)
『愛は売るもの』(ジル・チャーチル)

2010年7月30日金曜日

『退出ゲーム』(初野 晴) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

廃部寸前の弱小吹奏楽部周辺を舞台に、「チカ」と「ハルタ」を主人公とした短編集です。死体とかは一切出てこない、いわゆる「日常の謎」もの。第1話読了時点では、ふーんという程度の感想でしたが、2話目以降がよかったです。一話経るごとに部員が一人ずつ増えていくRPGみたいな構成もGoodです。



巻頭の人物紹介で、穂村千夏と上条春太は三角関係だとありますが、甘酸っぱいラブストーリーを期待すると肩透かしかもしれません。あまり萌えシチュエーションのない話ですが、ヒロインのチカは色々な意味でとても良い主人公だと思います。以下、各話ごとの感想です。

1編目「結晶泥棒」は、人物紹介のためのお話しですね。学園祭の開催が危ぶまれる事件が起こり、主人公二人がその解決に挑むという、ミステリ的にはまぁありふれた状況です。物語全体の基調となる、とある設定についてもミステリ仕立てとなっています。ミステリとしては正直物足りない感じですが、設定紹介として割り切って読むべきでしょう。

「クロスキューブ」は、全面白色という謎のルービックキューブに挑む話し。何故だか校内で大流行してしまったルービックキューブ。影で練習しまくって「スピードキュービスト」の称号を得たハルタと、いい気になるハルタにむかついて完成したキューブをどんどん解体していくうちに「スクランブラー」の異名をとってしまったチカの掛け合いが面白いです。設定がとてもユニークで、本書中では一番好きな作品です。凄腕のオーボエ奏者「成島美代子」が仲間となります。

「退出ゲーム」は、演劇部となぜか舞台で勝負をすることになってしまい、よりうまく「退出」できた方が勝ちというルールでゲームをするはめになる舞台劇のお話し。演劇部側と吹奏楽部側にわかれて、お互いに口実をつけて退出を目論む駆け引きが本編の醍醐味。この作品は日本推理作家協会賞(短編部門)の候補作となったそうで、ユニークな舞台設定に唸らされます。中国系アメリカ人のサックス奏者「マレン・ケイ」が登場します。

最終編のタイトル「エレファンツ・ブレス」は実際にある謎の色だそうです。来春から入学予定のバストロンボーン奏者「後藤朱里」は、なかなかいい性格をしていて、本書では私一番のお気に入り。色々問題を起こす発明兄弟の凄いんだか馬鹿なんだかわからない発明から、事態は思わぬ方向へ展開します。ちょっと重い話ですが、後味はすっきりしているので読後感は悪くありません。

それぞれのミステリもよく出来ていますが、弱小部ながら過去にコンクール受賞歴もある凄腕指揮者「草壁信二郎」を教師として迎えたことで、吹奏楽の甲子園「普門館」を真剣に目指す、スポコン的なノリも見せています。それだけに、音楽方面についてももう少し突っ込んで欲しかった気もしますが、本編のミステリとしての完成度が高かったのでやむを得ないところでしょう。

とにかくミステリとしても青春ストーリーとしても秀逸です。すでに続編がでているようなので、ハードカバーですが手を出してみたいと思っています。

評価:★★★★☆

続編レビュー:初恋ソムリエ(初野 晴)

2010年7月29日木曜日

『ローマ人の物語〈15〉パクス・ロマーナ(中)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

前巻レビューで、ローマ人は血にこだわらないなんて書いてしまいましたが、少なくともアウグストゥスについてはとんでもない誤りでした。やはり、カエサルと比べると人間的な魅力では随分劣る印象です。本巻は地味な内政の話ばかりでつまらないなぁと思っていたら、次期皇帝ティベリウスとの確執あたりで面白くなってきました。



カエサルがあまりにも男前過ぎたので、ローマ人の気質というのがそう言うものなのかと思っていましたが、アウグストゥスは典型的な権力者の一面を見せてくれるので、逆にちょっとほっとしたりもいたします。堅物で血にこだわる人だったようですね。

次期皇帝となるティベリウスですが、彼は奥さんの連れ子でアウグストゥスと血のつながりがないため、当初は後継者と目されていなかったようです。血のつながりだけで言うなら彼の弟ドゥルーススも同様なのですが、こちらはアウグストゥスのお気に入りだったようで、彼の早すぎる死で緩衝材が不在となったためか、ティベリウスとアウグストゥスの仲は一時険悪になってしまいます。

ティベリウスは後の巻の「悪名高き皇帝たち」で紹介されるていることもあるため、愚帝の先入観を持って読んでいたのですが、実は有能な人物だったようです。軍事音痴のアウグストゥスに変わり、弟ドゥルーススとともに軍事面トップのアグリッパをよく支えたようです。

アウグストゥスの一粒種ユリアをあてがわれなかがらも強引に別れさせられた前妻を忘れられず、追い打ちをかけるように仲の良かった弟ドゥルーススが死んでしまったことにより、ティベリウスは世を儚んで隠遁生活に入ってしまいます。その彼がどういった経緯で次期皇帝となるかが、次巻で明かされます。

評価:★★★☆☆

続巻:
『ローマ人の物語〈16〉パクス・ロマーナ(下)』(塩野七生)

関連レビュー:
『ローマ人の物語〈14〉パクス・ロマーナ(上)』(塩野七生)

2010年7月28日水曜日

『愛は売るもの』(ジル・チャーチル) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

すっかりヴォールブルグの町に馴染んできた二人の館に、怪しげな人物の一行が宿泊を求めてきます。逡巡しつつも結局止めることにしたものの、またもや殺人事件が。恋の兆しも見えそうな見えなさそうな予感のする、グレイス&フェイバーシリーズ第4弾です。



今回の被害者は、怪しげな宗教関係の伝道師です。ちょっと考えればインチキとしか思えない輩ですが、不安な情勢を反映してか結構な数の信者を集めていたため、色々な厄介ごとが降り掛かってきます。宗教関係は本当に厄介ですね。

殺人事件には巻き込まれながらも、リリーとロバートはすっかり生活が落ち着いてきたようです。今回は臨時の教師をすることになりましたが、そこの校長(女性)が新たにグレイス&フェイバーに借家することになりました。貴族ぐらしには戻れないまでも、家賃収入の方は順調に増えてきているようです。

恋話のほうについては、ロバートの方はまぁいいとして、リリーのお相手はウォーカーになるんですかね?彼は2巻からの登場ですが、それならもう少しそれらしい演出で登場させて欲しかった気もします。

なんだか今回は兄妹の印象が随分薄かったですね。探偵役のリリーも最後にちょっと気がついたんだけどー、みたいな感じであまり物々しさがないのが、ちょっぴりモノ足りません。ただ、時代背景の描写は今回も興味深かったです。ルーズヴェルトも無事大統領に当選し、これからシリーズの雰囲気が変わってきたりするのでしょうか。

評価:★★☆☆☆

次巻:『君を想いて』(ジル・チャーチル)

関連レビュー:
『風の向くまま』(ジル・チャーチル)
『夜の静寂に』(ジル・チャーチル)
『闇を見つめて』(ジル・チャーチル)

2010年7月27日火曜日

『ヴィーナスの命題』(真木武志) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

新本格の皮をかぶった青春小説の傑作。しかし、序盤は読むのが結構しんどいです。あとで明かされる事実を踏まえると読み方がガラッとかわってしまいます。なんだか超能力っぽいものも出てきますが、収束には思わず唸らされてしまいました。読後感もさわやかなすばらしい作品です。



申し訳なくも、読み始めはいかにも新人が書いたっぽい出来損ないという印象でした。この分かりにくい、いやらしい感じの文章が、単に下手なのか計算なのかを見極めてやるつもりだったのですが、読み進めていくうちに脱帽しました。

本書と印象の似ている作品を上げるとすると、学校を出よう!とか戯言シリーズなんかになるでしょうか。学園もので、ミステリテイストで、超常現象もあり。ライトノベルやSFっぽいのが好きでない人にはちょっとしんどいかもしれません。

とにかく、途中の青臭い議論とかは黙って耐えてほしいところです。多分に計算が入っていますから。ラストあたりでガラッと印象が代わると思いますので、是非頑張って最後まで読んでください。二週目必読と呼ばれる作品は多くありますが、本書ほどその言葉がふさわしい作品もないでしょう。読了後すぐに丸まるもう一度読んでしまった作品は本書くらいかもしれません。

本書は10年ほど前の横溝正史賞最終選考作品の文庫化だそうです。商業的には失敗だったなどとあとがきでは書かれていますが、メフィスト賞あたりで出てれば結構ヒットしたような気がします。文庫化に時間がかかったのは作者が続編を書かなかったためだそうですが、いよいよ本年中に続編が刊行予定とのこと。とても楽しみでしかたありません。

評価:★★★★★

2010年7月26日月曜日

『ローマ人の物語〈14〉パクス・ロマーナ(上)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

アントニウスを打ち破ったアウグストゥスにより帝政が始まります。しかし、君主とか王とかの存在に大きな拒否反応を示す共和制ローマのこと、カエサルの轍を踏まないためにも、導入は慎重にならなければいけません。オクタヴィアヌス改めアウグストゥスによる、長くて地味な戦いの始まりです。



日本史に例えると、カエサルが信長ならアウグストゥスは家康ということになるでしょうか。とにかく慎重で気の長い人です。その政策の完成が何十年になるということもあり、筆者も叙述に苦労しています。あちこち少しずつ手をつけているので、時系列だとわけが分からなくなるのですね。

とにかく名より実を取れの徹底。「これより共和制に戻ります」なんて言って表向きの地位や特権を返上しつつ、重要な実権は目立たないように維持していきます。

それにしても、ローマ人の血へのこだわりの無さは不思議な感じです。アウグストゥスは人妻に横恋慕して強引に(とはいえ同意の上で)自分のものにしてしまいますが、その二人目の奥さんとは一生添い遂げることになったそうな。しかも、男子の実子が生まれなかったため、彼女の連れ子ティベリウスを後継者とします。そのあたりの感覚が面白いです。

戦が苦手なため、戦い方もカエサルとは自ずから違ったものとなります。このあたり、自分に何が出来るのかを見極める冷静さが凄いですね。何でも出来てしまったカエサルよりは、凡人にとっては範とすべきところが多いように思えます。

評価:★★★☆☆

続巻:『ローマ人の物語〈15〉パクス・ロマーナ(中)』(塩野七生)

2010年7月25日日曜日

『天にひびき 2巻』(やまむらはじめ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

1巻ではいいところのなかったヴァイオリニストの卵「秋央(あきお)」君が、ようやくやる気をみせてきました。ヒロインが指揮者で、題材としては「のだめ」とかぶりまくっているのに、これほど違った印象を与えるのは不思議なところです。



音楽ものいいですよね。門外漢だけど大好きです。古くは『「あると」の「あ」
』とか(古すぎる・・・)。素人だから逆に良いというところもあるのでしょうね。ちょっぴりかじってる将棋ものだと、逆に微妙に感じるものが多いし。

ひびきの「天才」に刺激を受けて、凡人の秋央くんが必死になってきました。一心不乱に打ち込む姿は格好いいです。私もちょっと刺激を受けました。やるべきことは四の五の言わずにとにかくやればいいんですね。多分、凡人でも大抵の成功には到達できる。最も大事なのは意思の力。

1巻ではへたれていただけの秋央くんですが、格好良くなってきた途端にフラグがたちすぎですね。ひびきに美月に波多野に如月先生。やまむらさんの作品では三角関係は良く見るように思うのですが、こういうギャルゲーのような展開は珍しいんじゃないでしょうか。

本命がひびきで対抗が美月になるかと思いますが、私はいまのところ波多野さんが一番好きです。無口でグラマラスな美女、でもクールでもツンでもありません。思わぬ局面では慌てた表情をみせるし、授業サボって練習室にこもった秋央にそっと差し入れしようとするし。すばらしいです。

秋央にだけなぜか厳しく、本人もその理由が分かってない如月先生もいい味出してます。脇が強すぎるのは良い作品の条件ですね。

今月は本巻と同時に『神様ドォルズ 7』も発売。なんて贅沢なんでしょう。今回出番のなかった美月も再登場で、ますます目が離せません。

評価:★★★★☆