2010年6月30日水曜日

『ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

四十にしてついに起つ。三頭体制の開幕、そしてガリア戦役です。ユリウス・カエサルという男、格好良すぎます。



人気はあっても実績のないカエサルが、政治頭のないポンペイウスとお金しかないクラッススを騙くらかして三頭体制を樹立。それだけならただのお調子者ともとられかねませんが、その後のガリア遠征における知略・勇気・侠気をみせられると、誰も何も言えません。

それにしてもポンペイウス、奥さんをカエサルに寝取られながら、その寝取った本人の娘を新しく嫁にむかえるとは、昔はおおらかな時代だったのですね。政略的な意味があったとはいえ、カエサルの娘ユリアとは彼女が亡くなるまで幸せな結婚生活だったようで、いろんな人にとって幸運だったことでしょう。

西方のスペインや東方のシリアにポンペイウス、クラッススの両巨頭が赴いていることから、国境を接する周辺地域はいずれも重要度が高かったのだと思います。そんな中、なぜカエサルが特に北方ガリアにおける属州総督の地位を望んだのかがよくわからなかったのですが、まだ未開の地に手をつけることで名声を高めるためだったのですかね。

実際、ブリタニア(イギリス)遠征や、ガリアを越えてゲルマン民族にまで攻め入ったりと、ローマ人では未踏の偉業を次々と成し遂げ、さらには名文として名高いガリア戦記の刊行です。もちろん、公としての大志がなければ成し遂げられない難事業だったとは思いますが、人気取りとしても申し分なかったことでしょう。

ところで本書の端々でも引用されているガリア戦記、いったいどれほどの名文であったのでしょうね。引用文を見るにつけても興味が押さえられません。カエサル編が終わったらチャレンジしてみましょうかね。

評価:★★★★☆

次巻:『ローマ人の物語〈10〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(下)』(塩野七生)

関連レビュー:
『ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)』(塩野七生)

2010年6月29日火曜日

『つばき、時跳び』(梶尾真治) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

椿の咲き乱れる「百椿庵(ひゃくちんあん)」に一人暮らすこととなった売れない作家「井納惇(いのうじゅん)」。女性にしか見えないと噂されていた幽霊がなぜか惇にもみえてしまう。その正体は、百数十年前の「百椿庵」に住む20歳前後の女性「つばき」だった。一つ屋根の下での美少女との生活という夢のようなシチュエーションの行方は?



以前レビューを書いた七花、時跳び!のオマージュ元と思われる作品。ちょうど新書版が出たようなので読んでみました。

今年8月に舞台化するそうですが、なるほどと思わされます。とてもシンプルで分かりやすいストーリーです。タイムトリップものというと小難しい理論やパラドックスなどが主題になりがちですが、そういうのが全くありません。純粋な時を超えたラブストーリーです。

「つばき」が現代世界に戸惑うようすが、お約束ながらとても魅力的です。しかし、アイスクリームはともかく初めて飲むビールっておいしいものなんですかね?

調子よく酒なんか飲ませて、シチュエーション的には結構エロイ感じなのですが、二人とも真面目なので間違いが起こる気配もありません(笑)。でも、下着のつけ方が分からなくて手伝ってもらったりと、「つばき」の無防備っぷりはなんともいえないところです。

話しの構成がほんとにシンプルで、どちらかというと雰囲気で読ませる作品です。ストーリー重視の私としては若干物足りなさを感じなくもないのですが、熟練の筆者らしい完成度の高さは流石というしかありません。

評価:★★☆☆☆

2010年6月28日月曜日

『万能鑑定士Qの事件簿4』(松岡圭祐) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

催眠の嵯峨敏也が登場しますが、未読でも問題ありませんでした。むしろ、先入観がないほうが良いかもしれないくらいです。今回もかなりの大技でした。



別作品の人物を登場させるのってあまり好きではないのですが、本作では上手く料理しているように思いました。シチュエーションに必然性があり、なぜその人物が必要だったかを納得させてくれます。世界観の侵食といったことも全くありませんので、安心して読めると思います。

肝心のトリックに関しては、今回はちょっと私読めてしまいました。不可能犯罪っぽさは今回もかなり良い感じで演出されていたと思うのですが、それだけによく考えると可能性が限られてしまいます。普段は驚きを得るため、ミステリは深く考えず読むようにしているのですけれど、ちょっと損した気分です。

次回は莉子がフランスに飛ぶそうです。本格的な美術鑑定に挑むのですかね?相撲シールとか映画のポスターとか毎回キワモノの鑑定が多いので、楽しみにしておきます。

評価:★★☆☆☆

関連レビュー:
『万能鑑定士Qの事件簿3』(松岡 圭祐)

2010年6月27日日曜日

『乙嫁語り 1, 2』(森 薫) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

森薫さんの絵は吸引力がありますね。場所は中央アジア、カスピ海周辺の草原地帯、19世紀に生きる居牧民の生活が、12歳の少年カルルクと彼に嫁いだ8歳年上アミルの視点から描かれています。




異文化の風俗というのはそれだけで興味深いものです。それを森薫さんの絵で、しかも筆者の萌ポイントを目一杯つぎ込んで描かれると、もう完全にお手上げです。

末子相続という文化が面白いですね。そのため12歳のカルルクが家長となるようです。嫁き遅れ気味のアミルがカルルクにぞっこんとなる様子には、筆者の煩悩が溢れんばかりに伝わってくるようです。ショタというやつでしょうか。まぁ、カルルクちっこいけど男前ですからね。

2巻のあとがきによると、シルクロード世代からの反響が大きかったとのこと。いまどきの若い人にはぴんと来ないかもしれませんが、その昔のNHK特集で大ヒットしたドキュメンタリーシリーズがあったのです。私の母も好きでした。

2巻後半では戦争の影が見え隠れします。細かな争いはあるものの朴訥とした世界に、どんな未来が待ち受けているのでしょう。あんまり暗いのは嫌なんですが・・・

評価:★★★☆☆

2010年6月26日土曜日

『ふたりの距離の概算』(米澤穂信) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

古典部に仮入部した「大日向友子」が入部しないといいだした。本入部届提出期限の今日はあいにくのマラソン大会。我らが「省エネ主義者」の奉太郎が、ちんたら走りながら後方スタートの関係者に聞き込みをしていく、らしいのからしくないのか分からない展開の古典部シリーズ第5段です。



刊行まで待ちきれなくて「野性時代」での連載を立ち読み(ごめんなさい)していたため、本書はお布施のつもりで購入したのですが、改稿が多くてかなり印象が変わりました。喫茶店のネーミングはなんとも恥ずかしいですね。クールな野暮天の奉太郎が当てきれなかったのも無理ありません。一部ネット上で過去作品と矛盾があると指摘されていた箇所も修正されているようでした。

加筆は終章の7ページですが、それだけでこれほど話が締まるとは思いませんでした。連載中は、正直ちょっぴり淡白だなと感じていたのですけれど、さすがのよねぽマジックです。作中のちょっと唐突だなと思っていた箇所についても、伏線がこまめに追加されています。

古典部の4人がかなり個性的というか難しい人間の集まりなため、ここに誰かが加わるのは想像しにくかったのですが、大日向さんはかなりいい感じの5人目候補だなと感心しました。ぱっと見たところ男と間違えそうな風貌に、古典部らしくない(?)明るくさばけた性格。かといって、やはり一癖ありそうなところはポイント高しです。マラソン中にお団子食べたいと言い出したのは超ツボでした。

大日向と関連して、新一年生の名前がいくつか出てきました。本作だけで立派に完結した一作ですが、シリーズ全体を通してみると、今後へのつなぎ的な意味合いのほうが強い作品なのかなという気がします。里志の妹は当然気になるとして、奉太郎がすっかり忘れていた「阿川」さんが今後からんでくるのかこないのか、わたし気になります。

前作遠まわりする雛で、ようやく少しは進展しそうかと思われた奉太郎と千反田の関係ですが、あいかわらず何ともかんともな感じですね。外堀から少しずつ埋まっている感はなくもありません。もっとも、微妙な関係の二人が仲良く無駄話をするところが本シリーズ一番の見せ場という気もするので、本人たちには悪いけど、しばらくこのままでもいいかなという気もします。

ちょっと気になったのは、奉太郎がもっていた小銭。20キロも走るので2本分用意していたのはいいとして、240円だと硬貨6枚です。なぜ250円じゃなかったのでしょう。それなら最初が3枚→1本買って4枚→2本目を買って1枚となって、片方のポケット最大2枚で済みます。こういう小賢しいこと、いかにもホウタローが考えそうなことじゃありません?私もジョギングするのですが、ポケットにいくら忍ばせておくかは結構気を遣うところなのです。

と、細かいところがいくつか気になったとは言え、しょせんは重箱の隅レベルです。本作自体の完成度に加え、続編への期待も煽られてとても楽しめる作品でした。何よりも重要なのは、古典部の4人があいかわらずの4人であったことです。この雰囲気が続く限り、私の古典部シリーズへの評価は常にMaxなのです。

評価:★★★★★

2010年6月25日金曜日

『古い骨』(アーロン・エルキンズ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

人骨を研究対象とする「スケルトン探偵」ギデオン・オリヴァーが活躍する、1988年アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞の受賞作品だそうです。とりたてて主人公がチートなわけでもなく、いかにもアメリカっぽい真っ当な展開のミステリです。



鑑定系の探偵小説が読みたいと思って調べていたところ、同作者の偽りの名画という作品があるのを知ったのですが、「スケルトン探偵」シリーズのほうが有名っぽいので先に手をつけてみることにしました。

主人公は骨を見た瞬間なんでも明らかになる、というようなスーパーマンではありません。フランスへ出張中に巻き込まれた事件で、地元警察官の嫌味を受けながら、たまたま一緒だった友人のFBI捜査官「ジョン・ロウ」とともに真実を地道に追いかけていきます。

主人公も相棒も、どことなくお気楽な雰囲気が良いです。主人公「オリヴァー」は一応真面目な性格ではありますが、堅苦しい学者肌とは縁遠く、自分から事件に首を突っ込んで危ない目に合っても懲りない困った人。相棒の「ジョン」はとてもFBIとは思えない、ハンバーガ好きの軽い性格。でも、オリヴァーの好奇心に巻き込まれて貧乏くじを引くのはちょっと可哀想ですね。

ネタと言うかトリック部分はわりかし見え見えでしたが、どちらかというと結果より過程を楽しませる内容なのであまり気になりませんでした。なんとなく大雑把な、いかにもアメリカっぽい作風は嫌いではありません。

読んでておかしいなと思ったのですが、実はシリーズ4作目なのですね。受賞歴のある本作が一番最初に翻訳されたということなのでしょうけれど、正直どうなんでしょう。

出張先からでも電話でいちゃつくラブラブっぷりの愛妻ジュリー。彼女との馴れ初めを読むには、過去に遡らなきゃいけないのですね。このまま翻訳順に手をつけていくか、いまさらでも執筆順に追ってみるべきか、悩みどころです。

評価:★★☆☆☆

2010年6月24日木曜日

『ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

いよいよカエサルです。史書にも多く記述が残っているためか、文庫ではカエサルだけで全6冊になります。ちなみに本格始動前の本巻では、40歳くらいまでが描かれています。超遅咲きですね。



さほど歳の違わないポンペイウスと比べると、いまいちパッとしない若き日のカエサル。まぁ、大量虐殺のマルサスを義理の叔父にもったことから、追われる身となった若いころを考えると、なんとか上流階級としてレールに戻ってきた感じですが。

本巻で大物としての片鱗がみえるのが借金総額と女性関係だけとは。しかし、借金できるのも才能なのですね。のちに三頭政治の一角を担う、ちょっとお金に汚いクラッススが最大の債権者だったそうですが、
多額の借金は、債務者の悩みの種であるよりも、債権者にとっての悩みの種になる(P213)
散々借りまくって平気な顔のカエサルさんは超かっこいいです。羨ましい生き方ですよね。まぁ、借金の使途の大部分が公共事業のようなので、大っぴらに文句も言いにくかったのでしょう。

軍役にもそれなりについてはいたようですね。若い頃、小アジアを逃げ回る折に傭兵紛いのことをしてみたり、それで戦果もあげているのでやはり才能はあったのでしょうが、やはり実績においては「マーニュス(大王)」を称するポンペイウスと比べるべくもありません。いったいどのような経緯で頭角を表すことになるのか、期待しつつ次巻へ。

評価:★★★☆☆

次巻:『ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)』(塩野七生)