雰囲気ある海上都市を舞台に、ちょっと頼りない若手職員が上司の娘(小学5年生)と景観保護に奮闘するミステリ短編集です。良いお話でしたが超能力はちょっと蛇足気味かも。もしかして「絶対可憐チルドレン」みたいな年の差カップルものになるんでしょうか?
「日本のベニス」と呼ばれる水上都市「海市(かいし)」が舞台となります。「海市協会」の「空き家課」につとめる2年目職員「間宮明(まみやあきら)」が、なにかにつけ事件に絡んでくる上司の娘「三上汀(みかみみぎわ)」と、空き家保護にまつわる問題解決に挑んでいきます。探偵役は汀です。
この汀ちゃん、第1話にて写真の状況を再現できる超能力を持つことが判明します。しかし、ちょっと微妙な能力ですね。そもそもベースの話が結構いい雰囲気を出しているだけに、このイロモノ設定が浮いているように私には感じられてしまいました。
ただ、その能力が謎解きにそれほど活躍していないあたり、ある程度筆者の計算が入っているのでしょうか。汀の推理力自体は超能力とは全く関係ない、本人の頭の回転によるものです。最終話ではこの能力に関する由来らしきエピソードも出てくるため、「How」でなく「What」な要素なのかもしれません。
明の上司で汀の父親「三上敦(あつし)」、同僚のミステリオタク「友坂修平(ともさかしゅうへい)」、汀の親友「菅谷栞(すがやしおり)」など、登場人物はみなキャラの立ったいい味を出しています。脇キャラの良い作品に外れ無しです。
ただ、汀のライバルで何かとぶつかることが多いらしい同級生「森山理瀬(もりやまりせ)」。東京でモデルも勤め、取り巻きも多いハイスペックなのだそうですが、本巻では一度も台詞付きの登場をしていません。いかにもツンデレっぽいクリティカルな立ち居地のはずなのに・・・この焦らしっぷり、素晴らしいです(笑)
汀が最終話で小学6年生に進級しているということは、時間遷移のある成長ストーリーと言うことになるのでしょうか。なんだか最終話ではフラグらしきものが立ってるように見えたんですが・・・というわけで、続編とても楽しみにしています\(^-^)/
評価:★★★☆☆
2011年1月12日水曜日
2011年1月10日月曜日
レイヤード・サマー(上月司)
「れでぃ×ばと!」作者によるタイムトリップSFです。筆者の萌えより話作りの方を評価している私としては、なかなか美味しい作品でした。
最近の筆者の作風からすると、時間SFとは意外な方向性と思われる方もいらっしゃるかもしれません。「カレとカノジョと召喚魔法」からのファンとしては原点に戻ったと言う感じですね。
行き倒れているところを助けた彼女「流堂庵璃(るどうあんり)」は、銀色の長い髪にルビーのような紅い瞳をし、そしてなぜか主人公「黒瀬涼平(くろせりょうへい)」のことを知っている未来人でした。
このほかにもいくつかの「謎」をポンと投げかけて話を引っ張っていくスタイルは、いかにもミステリーチックで私の好みです。幼馴染みの「茜野々子(あかねののこ)」や親友「高円寺忠文(こうえんじただふみ)」に敵役の「ハル」、登場キャラたちもそれぞれ個性が立っていて魅力的です。
時間SFとしての設定は、私があまり考えて読んでいないせいもありますが、少し難しいような気がしました。要するに(1)未来から過去へ来てもそれは平行世界となる→よって過去を改変しても未来は変わらない(2)同じ時間軸に同一人物は存在できない、以上の2点がポイントとなるでしょうか。
ストーリーとしては結構好みの展開だったのですけれど、どうも伏線がまだ色々残されたままでいるようです。ちょっともやもや感が残っているのですが、あとがきを読んだところでは筆者も同様に感じていらっしゃるようですね。
以下、少しネタバレが入るのでご注意。反転してみてください。
「矛盾」とあるのでちょっと違うかもしれませんが、ラストで涼平が庵璃を引き止めていたら、これから来るはずだった17歳の庵璃はどうなってしまうのでしょうか。同一時間軸には2重に存在することはできないはずです。そうすると未来は変わる?
ネタバレ終了。
本書はかなり苦めのエンディングとなっていますが、そもそも時間を跳んできた過去は平行世界だという設定のため、どう転んでももう一つの世界で起きた悲劇は救われないと言うジレンマを本質的に抱えています。そのあたりをうまくクリアするためにも、上月さんはなんとしても続巻を出したいと思っていることでしょう。
とにかく本巻だけでは評価がとても難しい作品。このままでは後味がラノベにしてはヘビー過ぎる感じなので、私もシリーズ化を激しく希望したいです。ただ、電撃でこのSFっぽい小理屈ストーリーが通用するのかどうか・・・期待しています。
評価:★★☆☆☆
最近の筆者の作風からすると、時間SFとは意外な方向性と思われる方もいらっしゃるかもしれません。「カレとカノジョと召喚魔法」からのファンとしては原点に戻ったと言う感じですね。
行き倒れているところを助けた彼女「流堂庵璃(るどうあんり)」は、銀色の長い髪にルビーのような紅い瞳をし、そしてなぜか主人公「黒瀬涼平(くろせりょうへい)」のことを知っている未来人でした。
このほかにもいくつかの「謎」をポンと投げかけて話を引っ張っていくスタイルは、いかにもミステリーチックで私の好みです。幼馴染みの「茜野々子(あかねののこ)」や親友「高円寺忠文(こうえんじただふみ)」に敵役の「ハル」、登場キャラたちもそれぞれ個性が立っていて魅力的です。
時間SFとしての設定は、私があまり考えて読んでいないせいもありますが、少し難しいような気がしました。要するに(1)未来から過去へ来てもそれは平行世界となる→よって過去を改変しても未来は変わらない(2)同じ時間軸に同一人物は存在できない、以上の2点がポイントとなるでしょうか。
ストーリーとしては結構好みの展開だったのですけれど、どうも伏線がまだ色々残されたままでいるようです。ちょっともやもや感が残っているのですが、あとがきを読んだところでは筆者も同様に感じていらっしゃるようですね。
以下、少しネタバレが入るのでご注意。反転してみてください。
階層間移動ですが、庵璃が敢えて説明しなかったので、実は矛盾があります。(あとがきより)
「矛盾」とあるのでちょっと違うかもしれませんが、ラストで涼平が庵璃を引き止めていたら、これから来るはずだった17歳の庵璃はどうなってしまうのでしょうか。同一時間軸には2重に存在することはできないはずです。そうすると未来は変わる?
ネタバレ終了。
本書はかなり苦めのエンディングとなっていますが、そもそも時間を跳んできた過去は平行世界だという設定のため、どう転んでももう一つの世界で起きた悲劇は救われないと言うジレンマを本質的に抱えています。そのあたりをうまくクリアするためにも、上月さんはなんとしても続巻を出したいと思っていることでしょう。
とにかく本巻だけでは評価がとても難しい作品。このままでは後味がラノベにしてはヘビー過ぎる感じなので、私もシリーズ化を激しく希望したいです。ただ、電撃でこのSFっぽい小理屈ストーリーが通用するのかどうか・・・期待しています。
評価:★★☆☆☆
2011年1月9日日曜日
虐殺器官(伊藤計劃)
タイトルから想像していたより、ずっと理知的なバイオレンスSF小説。私の乏しい読書経験のなかでは、チャンドラーの「ロング・グッドバイ」が近い印象かもしれません。ちょっとグロも入っている点、個人的には苦手な感も無くは無いですが、静かで簡潔な文体には圧倒されてしまいました。
近未来が舞台ですが、9.11テロを引き金とした異質な世界観の設定となっています。アナザーワールドとでもいうんでしょうか。結構リアルな軍隊の描写もあったりして、読み始めはSFじゃなくてもいいんじゃないかと思ったりしましたが、最後まで読んだ結論、本書はSF以外ありえないです。
主人公は米軍暗殺部隊に所属する「クラヴィス・シェパード」情報大尉。「米軍」の「暗殺部隊」という設定からして、本書の雰囲気がうかがい知れるのではないでしょうか。彼の一人称形式で物語は進んでいきます。
軍隊やら暗殺やらの言葉から想起されるとおり、アクションシーンは当然豊富に用意されていますが、それに加えてヒロインとのバーでの会話やライバル役との対話・対決など、ハードボイルドのお約束がしっかり盛り込まれています。そういう意味で意外にエンターテインメント性は高い小説と言えるかもしれません。
主人公のクレバーかつクールな性格が、本書を決定的に特徴付けています。どこまでいっても静かな緊張感漂う雰囲気は、好きな人にはたまらないんじゃないでしょうか。家庭もちで一見陽気な相棒「ウィリアムズ」との対比も実に良いです。
敵役「ジョン・ポール」が世界各地で虐殺の引き金を引き、それに後手を踏み続けながらも一話ごとに真相に近づいていきます。全5部 + エピローグのうち、第四部は小松左京賞応募稿に新たに追加されたものだそうです。確かに第四部がなければちょっと唐突過ぎる展開と感じられたかもしれません。
第四部の件を抜きにしても、本書が小松左京賞最終選考に残りながら落選してしまったのは、全く理解できないと言うほどではありません。メインの仕掛けに対する説明がハードSFにしてはちょっと淡白かもしれないなとは私も感じました。
ただ、第1部の冒頭を少し読んでいただくだけでも、本書のクオリティやユニークさは歴然だと思います。本書出版への橋渡しをされたと言う円城塔さんや大森望さん、それに出版元のハヤカワ書房さんには、一読者として感謝の念に堪えません。
結構グロい描写も満載なので、私の好みとしては本来苦手なところでもあるのですが、文体があまりに客観的なため、その点ではさほど読みにくいとは感じませんでした。ゼロ年代ベストSFとの評価もうなずける、文句なしの傑作です。
評価:★★★★☆
以上が本編まで読んでの感想ですが、本書は大森望さんの解説があまりにも泣かせてくれます。ご存知の通り、筆者の伊藤計劃さんは、長い闘病生活の末、2009年3月に肺ガンのためお亡くなりになられています。デビューでのいきさつを経て筆者と懇意にしていた大森望さん自らの手による解説には、思わず涙腺が緩みそうになりました。「ありがとう」の一言です。
近未来が舞台ですが、9.11テロを引き金とした異質な世界観の設定となっています。アナザーワールドとでもいうんでしょうか。結構リアルな軍隊の描写もあったりして、読み始めはSFじゃなくてもいいんじゃないかと思ったりしましたが、最後まで読んだ結論、本書はSF以外ありえないです。
主人公は米軍暗殺部隊に所属する「クラヴィス・シェパード」情報大尉。「米軍」の「暗殺部隊」という設定からして、本書の雰囲気がうかがい知れるのではないでしょうか。彼の一人称形式で物語は進んでいきます。
軍隊やら暗殺やらの言葉から想起されるとおり、アクションシーンは当然豊富に用意されていますが、それに加えてヒロインとのバーでの会話やライバル役との対話・対決など、ハードボイルドのお約束がしっかり盛り込まれています。そういう意味で意外にエンターテインメント性は高い小説と言えるかもしれません。
主人公のクレバーかつクールな性格が、本書を決定的に特徴付けています。どこまでいっても静かな緊張感漂う雰囲気は、好きな人にはたまらないんじゃないでしょうか。家庭もちで一見陽気な相棒「ウィリアムズ」との対比も実に良いです。
敵役「ジョン・ポール」が世界各地で虐殺の引き金を引き、それに後手を踏み続けながらも一話ごとに真相に近づいていきます。全5部 + エピローグのうち、第四部は小松左京賞応募稿に新たに追加されたものだそうです。確かに第四部がなければちょっと唐突過ぎる展開と感じられたかもしれません。
第四部の件を抜きにしても、本書が小松左京賞最終選考に残りながら落選してしまったのは、全く理解できないと言うほどではありません。メインの仕掛けに対する説明がハードSFにしてはちょっと淡白かもしれないなとは私も感じました。
ただ、第1部の冒頭を少し読んでいただくだけでも、本書のクオリティやユニークさは歴然だと思います。本書出版への橋渡しをされたと言う円城塔さんや大森望さん、それに出版元のハヤカワ書房さんには、一読者として感謝の念に堪えません。
結構グロい描写も満載なので、私の好みとしては本来苦手なところでもあるのですが、文体があまりに客観的なため、その点ではさほど読みにくいとは感じませんでした。ゼロ年代ベストSFとの評価もうなずける、文句なしの傑作です。
評価:★★★★☆
以上が本編まで読んでの感想ですが、本書は大森望さんの解説があまりにも泣かせてくれます。ご存知の通り、筆者の伊藤計劃さんは、長い闘病生活の末、2009年3月に肺ガンのためお亡くなりになられています。デビューでのいきさつを経て筆者と懇意にしていた大森望さん自らの手による解説には、思わず涙腺が緩みそうになりました。「ありがとう」の一言です。
2011年1月6日木曜日
経済古典は役に立つ(竹中平蔵)
アダム・スミス、マルクス、ケインズなど、経済思想の位置づけをわかりやすく説明してくれる入門書です。さほど難しくはありませんが、多少は経済学のキーワードに馴染んでいないととっつきにくいかもしれません。学生時代に読みたかった一冊。
本書は慶応大学丸の内キャンパスで行われた社会人向け講義がもとになっているそうです。経済思想は専門ではないからと一度断ったのを、
本書を通じて強く主張されているのは、経済思想とはその時代に応じた最適解なのだということです。理論構築当時における問題意識を知ること無しに、時代遅れだなんだといっても意味はないとして、各章(1)時代背景(2)人物像(3)理論のエッセンスの3パートから構成されています。
紹介されている経済学者は以下の通りです。
なかでもマルサスとシュンペーターについては、経済学における位置づけが自分自身よくわかっていなかったため、目からうろこの思いでした。卒論が環境系のテーマだったため、マルサスの「人口論」についても一通りさらっていたのですが、コンテキストが全然わかってなかったなぁと、今になってちょっと恥ずかしく思ったり・・・(^^;
経済思想の主流を公平に取り上げているように見せつつ、実は結構恣意的な編集となっているような気もします。その点、アンチ竹中さんの方々にとってはあまり面白くないと感じられる本かもしれません。
本書のエッセンスは結局のところ2点。(1)「市場」による競争以上に効率を達成する手段は今のところ無い(2)ただし時代背景に応じた介入は必要。そのような立場を「モデレート・ケインジアン」と表現しています。
正直、経済学の理論闘争は宗教的でクラクラしてしまいそうなのですけれど、本書の主張は私にとって直感的に受け入れやすいものでした。企業勤めの経験があれば、ぴんと来る方が多いんじゃないですかね。象牙の塔の議論は真っ平だけど、経済思想の基本は押さえておきたいという方にお勧めの一冊です。
評価:★★★★☆
本書は慶応大学丸の内キャンパスで行われた社会人向け講義がもとになっているそうです。経済思想は専門ではないからと一度断ったのを、
実際に政策を経験された竹中さんのアダム・スミス論、ケインズ論を聞きたいんですと口説かれたとか。なるほど確かに、実務家としての現実感というか、バランス感覚の良さを強く感じました。
本書を通じて強く主張されているのは、経済思想とはその時代に応じた最適解なのだということです。理論構築当時における問題意識を知ること無しに、時代遅れだなんだといっても意味はないとして、各章(1)時代背景(2)人物像(3)理論のエッセンスの3パートから構成されています。
紹介されている経済学者は以下の通りです。
1章 アダム・スミス
2章 マルサス、リカード、マルクス
3章 ケインズ
4章 シュンペーター
5章 ハイエク、フリードマン、ブキャナン
なかでもマルサスとシュンペーターについては、経済学における位置づけが自分自身よくわかっていなかったため、目からうろこの思いでした。卒論が環境系のテーマだったため、マルサスの「人口論」についても一通りさらっていたのですが、コンテキストが全然わかってなかったなぁと、今になってちょっと恥ずかしく思ったり・・・(^^;
経済思想の主流を公平に取り上げているように見せつつ、実は結構恣意的な編集となっているような気もします。その点、アンチ竹中さんの方々にとってはあまり面白くないと感じられる本かもしれません。
本書のエッセンスは結局のところ2点。(1)「市場」による競争以上に効率を達成する手段は今のところ無い(2)ただし時代背景に応じた介入は必要。そのような立場を「モデレート・ケインジアン」と表現しています。
正直、経済学の理論闘争は宗教的でクラクラしてしまいそうなのですけれど、本書の主張は私にとって直感的に受け入れやすいものでした。企業勤めの経験があれば、ぴんと来る方が多いんじゃないですかね。象牙の塔の議論は真っ平だけど、経済思想の基本は押さえておきたいという方にお勧めの一冊です。
評価:★★★★☆
2011年1月4日火曜日
蓮華君の不幸な夏休み〈1〉(海原育人)
超能力バトルものです。大学生の主人公と企業戦士のお姉さんコンビ。軽快な文章に加えてキャラクターも魅力的。二人のコミカルなやり取りがなんとも素敵です。ちなみに裏表紙のちょっとエロいイラストは、本編とあまり関係ありません(^^;
タトゥショップで超常の力を手に入れてしまった大学生の主人公「蓮華晴久(れんげはるひさ)」が、生真面目・クール系だけどちょっぴり残念な微笑ましいところもある美人なおねいさん「亘理翔子(わたりしょうこ)」と組んで、日常を取り戻すための戦いを繰り広げるお話です。
筆者の作品は「ドラゴンキラーあります」のシリーズを読みましたが、今回はハードボイルド加減薄目かと油断してたら結構えげつないバトルが待っていました。陰惨な爽やかさという、なんとも独特な筆者の個性は健在のようです。
登場するグループは、大きく分けて4種類。主人公コンビ+ツバメ(=晴久の脳内に住み着いた何か)、晴久の友人「七海那美(ななみなみ)」と「赤間大地(あかまだいち)」、翔子がやめた会社「三つ葉製薬」と元同僚、そして諸悪の根源たる美人彫り師「日下部明日香(くさかべあすか)」とその手下たち。
4者の思惑が絡み合いつつストーリーが展開していきます。ただ、那美と大地については最初の日常部分に登場しただけで、今のところ直接には話に絡んできません。まだ一冊目ということで顔見世程度ですね。「きゃっきゃうふふ」な三角関係にも大いに期待したいところです。
とにかく全編を通して実にテンポ良く話が進んで行きます。それでいて、ちょっと慣れたところでドキッとするような揺さぶりが入ったり。序破急というんですかね。一作目ということで若干消化不良な部分も残ってはいますが、今後の展開がとても楽しみなシリーズです。
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
蓮華君の不幸な夏休み 2(海原育人)
タトゥショップで超常の力を手に入れてしまった大学生の主人公「蓮華晴久(れんげはるひさ)」が、生真面目・クール系だけどちょっぴり
筆者の作品は「ドラゴンキラーあります」のシリーズを読みましたが、今回はハードボイルド加減薄目かと油断してたら結構えげつないバトルが待っていました。陰惨な爽やかさという、なんとも独特な筆者の個性は健在のようです。
登場するグループは、大きく分けて4種類。主人公コンビ+ツバメ(=晴久の脳内に住み着いた何か)、晴久の友人「七海那美(ななみなみ)」と「赤間大地(あかまだいち)」、翔子がやめた会社「三つ葉製薬」と元同僚、そして諸悪の根源たる美人彫り師「日下部明日香(くさかべあすか)」とその手下たち。
4者の思惑が絡み合いつつストーリーが展開していきます。ただ、那美と大地については最初の日常部分に登場しただけで、今のところ直接には話に絡んできません。まだ一冊目ということで顔見世程度ですね。「きゃっきゃうふふ」な三角関係にも大いに期待したいところです。
とにかく全編を通して実にテンポ良く話が進んで行きます。それでいて、ちょっと慣れたところでドキッとするような揺さぶりが入ったり。序破急というんですかね。一作目ということで若干消化不良な部分も残ってはいますが、今後の展開がとても楽しみなシリーズです。
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
蓮華君の不幸な夏休み 2(海原育人)
2011年1月2日日曜日
ローマ人の物語〈33〉迷走する帝国〈中〉(塩野七生)
ペルシアの台頭、ゴート族の大襲来と、まさに七難八苦といったローマの惨状。数年でコロコロ帝位が入れ替わっていきますが、日本の政治だって似たようなものだとはいえます。ただ、皇帝のすげ替えが実力行使しかないってのが陰惨です。
この頃のローマは現在の日本によく似ているなというのが本書を読んでの私の印象。国境付近で苦戦の連続、トップに担ぎ上げられた皇帝たちの弱腰姿勢など。まあ、危機にある国というのはどこも同じようなものかもしれません。
もっともペルシアはともかく、ゴート族の侵入については尖閣どころでない、日本で言えば大坂か名古屋を襲撃されたくらいのインパクトがあったようです。大帝国として平和を享受してきた代償として、国境以外には軍事力ないところを容赦なく叩かれてしまいます。
ローマの皇帝選出方法自体にも問題はありそうです。選挙があるわけではないので、政権交代の手段は暗殺しかありません。軍に人気のある人物が、その力を背景に帝位を継ぐわけですが、空白期間を作らないために元老院もしぶしぶ承認せざるを得ないのが弱いところです。
マクシミヌス・トラヌスは、いってみれば長嶋茂雄さんがいきなり首相になったかのような皇帝といえるかもしれません。一応軍事には才能をみせて連戦連勝を重ねますが、元老院に嫌われて結局早々と謀殺。万人を納得させる血統とか正当性といったものが、どうしても重要になりますね。
ヴァレリアヌスは実力、実績、血統の全てを備えた理想的な皇帝だったようです。しかし在位7年ののち、ペルシアとの戦争で寄りにも寄って敵の手に落ちてしまいます。どうやらペルシア王シャープールが相当汚い手をつかったようで、全く持って運のないことです。
皇帝が頻繁に変わりつつも、個々人についてはそれなりの人材だったようで、ここはさすがローマといわざるを得ません。それでも苦境に陥ったのは、やはり周辺環境の変化と平和ボケなのでしょう。危機はまだまだ続きます。
評価:★★★☆☆
この頃のローマは現在の日本によく似ているなというのが本書を読んでの私の印象。国境付近で苦戦の連続、トップに担ぎ上げられた皇帝たちの弱腰姿勢など。まあ、危機にある国というのはどこも同じようなものかもしれません。
もっともペルシアはともかく、ゴート族の侵入については尖閣どころでない、日本で言えば大坂か名古屋を襲撃されたくらいのインパクトがあったようです。大帝国として平和を享受してきた代償として、国境以外には軍事力ないところを容赦なく叩かれてしまいます。
ローマの皇帝選出方法自体にも問題はありそうです。選挙があるわけではないので、政権交代の手段は暗殺しかありません。軍に人気のある人物が、その力を背景に帝位を継ぐわけですが、空白期間を作らないために元老院もしぶしぶ承認せざるを得ないのが弱いところです。
マクシミヌス・トラヌスは、いってみれば長嶋茂雄さんがいきなり首相になったかのような皇帝といえるかもしれません。一応軍事には才能をみせて連戦連勝を重ねますが、元老院に嫌われて結局早々と謀殺。万人を納得させる血統とか正当性といったものが、どうしても重要になりますね。
ヴァレリアヌスは実力、実績、血統の全てを備えた理想的な皇帝だったようです。しかし在位7年ののち、ペルシアとの戦争で寄りにも寄って敵の手に落ちてしまいます。どうやらペルシア王シャープールが相当汚い手をつかったようで、全く持って運のないことです。
皇帝が頻繁に変わりつつも、個々人についてはそれなりの人材だったようで、ここはさすがローマといわざるを得ません。それでも苦境に陥ったのは、やはり周辺環境の変化と平和ボケなのでしょう。危機はまだまだ続きます。
評価:★★★☆☆
2011年1月1日土曜日
水の時計(初野晴)
ファンタジーっぽいと聞いて少々手を出しかねていたのですが、全くの杞憂でした。雰囲気的にはIWGPのようなハードボイルド基調ですが、ヒロイン葉月の超設定がぐっと話に重みを加えています。主人公たちの根底に優しさが見え隠れするのが、いろんな意味で胸に迫る怪作です。
ファンタジーが嫌いというわけではないのですが、ミステリ+ファンタジーという組み合わせには少々胡散臭さを感じてしまいます。Amazonの紹介文では
暴走族「ルート・ゼロ」三人のトップの一角を張りながらも、仲間から追われる身となる鬱屈した少年「高村昴(たかむらすばる)」。窮地を助けられた老紳士に連れられた先には、脳死状態でありながらも、機械的処置で身体活動を維持し続ける少女「葉月」が待っていました。
月明かりの元でのみ奇跡的に意識を取り戻す彼女は、昴に対してある依頼をします。自身の臓器を分け与える候補者を選び、届けてほしい。2章以降の各話は短編仕立てで、角膜、腎臓、心臓などの移植を望む患者達のエピソードが続きます。
なんといいますか、非人間的存在との報われない恋、というシチュエーションに私はとても弱いのです。回復不可能で徐々に身体を切り取られていく葉月は、もはや人間と呼べる存在ではありません。昴との仲が成就することも当然ありえません。
そもそも昴には別に彼女っぽい存在もいるのが、むしろ救いとなるでしょうか。片言でしか話せないクールな葉月と、何かにつけぶっきらぼうな昴の会話は、とても心温まるものとはいえませんが、その適度な距離感が何ともいえない余韻を引き出しています。
各話ではそれぞれに被移植者のエピソードが語られていきますが、本筋に絡んだ変化球がたくみに織り交ぜられているため、単調になることなく一気に読ませてくれます。それぞれの患者達が持つ悩みには、筆者のこの分野における思い入れが強く感じられます。
本書が筆者のデビュー作ということで、展開的に少々無理っぽいかなというところも見られなくはないのですが、それらを補って余りある迫力が本書にはあります。ユニークかつ秀逸な舞台設定に加え、登場人物たちの根底に見え隠れする優しさのかけらに、思わずほろっときてしまう作品です。
評価:★★★★☆
ファンタジーが嫌いというわけではないのですが、ミステリ+ファンタジーという組み合わせには少々胡散臭さを感じてしまいます。Amazonの紹介文では
透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描いた、ファンタジックな寓話ミステリ。とありますが、前半部分はともかく本書を「ファンタジック」と表現するのは全く的外れというか、宣伝文としては逆効果じゃないでしょうか。
暴走族「ルート・ゼロ」三人のトップの一角を張りながらも、仲間から追われる身となる鬱屈した少年「高村昴(たかむらすばる)」。窮地を助けられた老紳士に連れられた先には、脳死状態でありながらも、機械的処置で身体活動を維持し続ける少女「葉月」が待っていました。
月明かりの元でのみ奇跡的に意識を取り戻す彼女は、昴に対してある依頼をします。自身の臓器を分け与える候補者を選び、届けてほしい。2章以降の各話は短編仕立てで、角膜、腎臓、心臓などの移植を望む患者達のエピソードが続きます。
なんといいますか、非人間的存在との報われない恋、というシチュエーションに私はとても弱いのです。回復不可能で徐々に身体を切り取られていく葉月は、もはや人間と呼べる存在ではありません。昴との仲が成就することも当然ありえません。
そもそも昴には別に彼女っぽい存在もいるのが、むしろ救いとなるでしょうか。片言でしか話せないクールな葉月と、何かにつけぶっきらぼうな昴の会話は、とても心温まるものとはいえませんが、その適度な距離感が何ともいえない余韻を引き出しています。
各話ではそれぞれに被移植者のエピソードが語られていきますが、本筋に絡んだ変化球がたくみに織り交ぜられているため、単調になることなく一気に読ませてくれます。それぞれの患者達が持つ悩みには、筆者のこの分野における思い入れが強く感じられます。
本書が筆者のデビュー作ということで、展開的に少々無理っぽいかなというところも見られなくはないのですが、それらを補って余りある迫力が本書にはあります。ユニークかつ秀逸な舞台設定に加え、登場人物たちの根底に見え隠れする優しさのかけらに、思わずほろっときてしまう作品です。
評価:★★★★☆
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