2010年6月7日月曜日

『万能鑑定士Qの事件簿2』(松岡 圭祐) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

こちらの続編です。

突拍子もない話しをどう着地させるのかと思ったら、これはうならされました。大技炸裂。エモーショナル
に訴えるところが少ないので、物語としての評価は若干キツめになるかもしれませんが、私はこういうトリッキーなの結構好きです。



とにかく事件の規模がバカでかいのです。本物と寸分違わない偽造紙幣があらわれただけでなく、通貨流通量から判断すると1万円冊の2割は偽札と推測される大事態に。国家レベルでもなければ不可能ではないかと思われる大掛かりな犯罪に対し、ラストでは意外な解決を見せます。

多分ツッコミどころもたくさんあると思うんですが、フィクションなんだから野暮は禁物としていただきたいところです。流水大説が好きな人なんかは大喜びできるんじゃないでしょうか。コズミックほどぶっとんではいませんが、ベクトルは似てると思います。

ちょっと脱線が多いのは気になるところです。ミスディレクションを散りばめるのは仕方ないとしても、もっと上手く活用できなかったのかなと。あれって結局意味なかったの?というエピソードが少し多かったように思います。

良きにつけ悪しきにつけ、万能鑑定士であるはずの凜田莉子が人間的な悩みをもって試行錯誤していくのが、本書の特徴ではあります。自分の能力に対して確信を持ちきれず、失敗しながらも徐々に成長していくヒロインのことは嫌いではありません。ただ、万能鑑定士が万能探偵でない点、若干の物足りなさを感じなくもありません。

細部に渡る薀蓄の描写は実にこなれていて、メイントリックの大胆さとあわせてミステリ小説としてかなりいい感じに仕上がっています。次巻以降では、今回の件で成長を積んで、もう少し超然とした凜田莉子を期待したいですね。

評価:★★★☆☆

次巻:
『万能鑑定士Qの事件簿3』(松岡 圭祐)

関連レビュー:
『万能鑑定士Qの事件簿 1』(松岡 圭祐)

2010年6月6日日曜日

『万能鑑定士Qの事件簿 1』(松岡 圭祐) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

本屋さんでプッシュされてるようなので買ってみました。2巻とあわせて一話のようです。主人公がチートで展開もぶっ飛んでいる割には、あまりライトノベルっぽい感じはしません。いままで読んだことのある本では、池上永一さんのシャングリ・ラが近い雰囲気ですかね。



主人公の「凜田莉子(りんだりこ)」は沖縄出身の23歳。高校時代は顔と性格だけが取り柄の超オチこぼれだった彼女が、いかにして博識のスーパー鑑定士になりえたのか。本巻では相撲シールの謎を追う本編と莉子の過去話の2本立てでストーリーが進みます。

依頼人の腕時計から瞬時に相手の素性をプロファイルしてしまう手管、私は密かにホームズメソッドと呼んでます。熟練の筆者らしく天才の描写は手馴れた感じです。でも、なんでもクールにお見通しなようで、ちらちらと垣間見せる世間知らずの純朴さや不安定さが、本主人公の本当の魅力です。それで萌え要素を感じさせないのも不思議なところですが(悪い意味ではなく)。

本編の語り手は「週刊角川」編集部の「小笠原悠斗」。リアルに角川書店が舞台になるのは私としてはちょっと微妙かも。語り手と作者の名前が同じだったりする作品、あまり好きじゃないんですよね。リアルとフィクションの狭間にいる不安定さになかなか慣れないのです。でも「週刊角川」は架空だし、本作はぎりぎりアリですかね。

妙に精巧な相撲シールが偽札事件と絡んでくるようですが、詳細な背景は1巻でもまだあきらかにされていません。偽札の供給量が半端でなく、ハイパーインフレを引き起こす超展開となっていくようで、ただの何でも鑑定士がどのように事件を納めることになるのか楽しみです。

追記:2巻のレビューはこちら
http://masa-w.blogspot.com/2010/06/q2.html

2010年6月5日土曜日

『あかんべえ〈下〉』(宮部 みゆき) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

クライマックスの泣かせる筆力は流石の一言です。それにしても、色々な伏線を上手いことまとめてしまえるものですね。



お化けたちとのお別れは、覚悟はしていたもののやはりホロッときました。玄之介の過去話は、なかなか痛快というか格好良かったです。肝心のあかんべえのお梅とのエピソードがもう少し欲しかったかなという気はします。

白子屋と浅田屋のエピソードの方はかなりの迫力で盛り上がったのですが、その分ラストへの流れが若干割を食った印象もあります。

別の話として何冊かにわけてもらえれば良かったのでしょうが、単行本一冊に収めるためには仕方なかったのでしょう。筆者の描写力がありすぎるがために、字数に制限があると最後の方で帳尻になってしまうのかもしれません。

ただ、全体としてはとても楽しめて、文句なしの良書でした。お化けたちのキャラクタが魅力的過ぎたので、これで終わってしまうのは残念ですが、宮部さんはキャラクターにあまり未練を持たないみたいですからね。ステップファザ-・ステップの続編とか読みたいんですけど・・・。

2010年6月4日金曜日

『あかんべえ〈上〉』(宮部みゆき) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

江戸時代深川に新しくできた料理屋が舞台、幽霊がみえるようになった12歳の少女「おりん」が主人公の物語です。面白いには面白いのですが、まだ前編のせいか鬱な事件しか起こってません。宮部さんの文章力がなければきつかったかも。



引越し先に住み着いていた幽霊たちとのふれあいが素敵です。男前なお侍の「玄之介」、とても美人な芸者風のお姉さん「おみつ」、病気を治してくれた無愛想な按摩の「笑い坊」、いきなり刃物沙汰をおこしてお店の評判を地に落としてくれた、でもなにかわけありそうな「おどろ髪」、そして謎の言動を取る得体の知れないあかんべえの少女「お梅」。それぞれが何かしらの事情を持っていそうなので、話しがどう回っていくのか楽しみです。

前編だけ読んだ限りでは、少しおりんの性格がつかみにくい気がしました。幼いのかしっかりしているのかはっきりしない。逆にそういう不安定さが、微妙な年頃の女の子に対する描写としては的確なのかもしれません。あるいは私が男だからピンとこないのかも。女性が読むとまた思い入れも変わってくるのかもしれません。

時代小説といいつつ、さすが宮部さんの作品だけあってミステリテイスト満載です。なにやらわけの分からない伏線があちこち散らばっているようで、こんなの回収しきれるのかなというくらいですが、そこは熟練の筆者を信頼して下巻に臨みたいと思います。

評価:★★☆☆☆

2010年6月3日木曜日

『情報デザイン入門 - インターネット時代の表現術』(渡辺保史) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

情報の見せ方について考えていた折、本書が目に留まって買ってみました。古い本(2001年)ですが、特に内容が時代遅れになっているということも無く、デザイン初心者にとって分かりやすい良書だと思います。



本書曰く、情報の組織化の方法は以下の5つしかないそうです。
  1. カテゴリー
  2. 時間
  3. 位置
  4. アルファベット(50音)順
  5. 連続量
最後の連続量が分かりにくいかもしれませんが、小→大とか低→高といった程度の違いをあらわすものです。値段とか★3つの評価といったものですね。確かに思い返してみれば、なるほどたった5つに集約されるものなのかと感心しました。

iPadのユーザインタフェースが大きな話題を呼んでいますが、
GUIに代わる新しい情報のインターフェイスがいま求められていることは間違いないのではないか、と思う。
とあるように、ユビキタスという言葉がはやり始めたあたりから、キーボードとマウスに代わる何かの模索はかなり進んでいたように思います。iPadのようなデバイスが日本から生まれなかったのは残念なことです。

本書でよく出てきたセンソリウムのサイトを見てきました。流石に過去のものという感じでしょうか。本書の内容は勉強になりましたが、こういうセンスについては野暮な私には理解しにくいですね。当時にあっても同じ印象を持ったと思います。

情報過多ということはずっと以前から言われていて、既に各人がそれなりに取捨選択のノウハウを磨いてきているとは思うのですが、初心に帰るという意味では本書は参考になると思います。最近キュレーションなんて言葉も聞きますが、昔もいまも同じところをぐるぐる回っているだけのような気がしなくもありません。

評価:★★☆☆☆

2010年6月2日水曜日

『ローマ人の物語 (3) - ハンニバル戦記(上)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

いよいよ、カルタゴとの地中海覇権をかけた争いです。「ハンニバル戦記」といいながら、ハンニバルはまだあまりでてきません。第1次ポエニ戦役から第2次ポエニ戦役直前までが題材となっています。



カルタゴというと、学校の教科書では唐突に現れてローマと戦ってすぐに消えていっちゃいますよね。何だか得体の知れない不思議な国家という印象を持っていました。本書を通して、カルタゴの当時に置ける存在感や、ローマとの大戦にいたる経緯が描かれていきます。ろくな海軍も持たなかった田舎者のローマが、ブイブイ言わせていくさまが実に痛快です。

ハンニバルはまだでてきませんが、お父さんの「ハミルカル」は活躍します。お父さんなんていたんですね。もちろんそれはいるでしょうけれど、鷹の父もまた鷹だったという。ハンニバルも全然ぽっと出ではない、名門出身の坊ちゃんだったということです。

カルタゴはすごい経済力の強国という印象だったので、どうやってローマが勝つのかと思っていましたが、やはり大国というのは内部で色々あったそうです。そのあたりも詳しくかかれていて、とても腑に落ちました。

華々しい史実はもちろんのこと、当時の風土に関する記述も興味深いところです。
ローマ人は肉食人種ではなかった。魚は好んだが、動物の肉には執着していない。(P146)
とあって、そのため
ガリア人、とくに後年接触するゲルマン人に対してはとくに、ローマの兵隊は体格で圧倒され、しばしば劣等感に悩んでいた(P146)
ということだったそうで・・・なんだかちょっと日本人に似てますね。親近感が沸きます。

文庫化にあたり3冊に分冊のため、1冊目には主役が影くらいしか出てこないわけですが、肩透かし感はあまり感じません。ハンニバルがいなくてもおもしろいですからね。それでも次巻に向けて、期待は否が応にも高まってきました。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
『ローマ人の物語 (4) - ハンニバル戦記(中)』(塩野七生)
『ローマ人の物語 (5) - ハンニバル戦記(下)』(塩野七生)

2010年6月1日火曜日

『御社の「売り」を小学5年生に15秒で説明できますか?』(松本 賢一) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

刺激的なタイトルですが、中身は至極まっとうです。ポジショニング分析の結果を簡潔かつ的確に宣伝文句へ昇華するメソッドを紹介しています。ものはいいのになぜか売れない、とお悩みの方にお勧めです。



割とありがちなジャンルの本かもしれませんが、本書の特徴はマス相手よりリアルな個人との接点を重要視しているところです。自分に嘘をつかない、真摯な言葉でなければ気持ちは伝わらないのではないか。お客さんに喜んでもらえた生の声など、人と人とのつながりから生まれる喜びを、成功の起点ととらえています。

既存のマーケティング手法は認めつつも、年齢や性別からさっくりターゲットを絞る切り口に対し
この属性方式では、血の通ったターゲット像が見えてこない
と疑問を呈しています。ビジネス視点からは少し感傷的に過ぎるととらえられるかもしれませんが、TwitterやSNSなどのソーシャルマーケティングにおける肝は、まさにそういう対人的なところにあるのではないかと思います。

筆者の顧客層がどちらかというと小口の事業者なため、ケーススタディとしては若干偏りがちになっていますが、本書の精神については規模に関わらず通用する部分があるのではないかと思います。

評価:★★☆☆☆