2010年9月14日火曜日

薄妃の恋―僕僕先生(仁木英之) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

美少女仙人「僕僕」先生とちょっと頼りない弟子の「王弁」が旅する中華ファンタジー第2弾。今回は短編集といって良いのでしょうか。あまり1冊としての大きな話しにはなっていませんが、愉快な連れ合いができたりで話が膨らんできそうです。



前巻ラストで僕僕先生がいないあいだちょっと頑張って、皇帝からもらった「通真先生」の名もまんざらでもなくなってきたはずの王弁ですが、本巻ではその成長振りが殆ど見られません。師匠が戻ってきて子供返りしたのでしょうか。

成長物語がないのはちょっと寂しいですが、短編集として全体のテイストをあわせるという意味ではこれでよかったのかもしれません。相変わらず童話のような話し作りは素敵です。もっとも童話と呼ぶには色ネタや下ネタが少々多い感じですが。

僕僕先生が美少女設定の割りになかなか萌えないのが、私としてはちょっと残念なところです。王弁に対して気があるのかないのかちょっと分かりにくい素振り。ライトノベルなんかだと、ライバル美少女が現われてくれたりするんですけどね。

今回はほぼ一話完結で、作品の雰囲気を楽しむには申し分ない構成ですが、物語好きとしては前巻のような大きな流れがほしかった気もします。まあ、そこは次回以降に期待ということでしょうか。

評価:★★☆☆☆

関連レビュー:
『僕僕先生』(仁木英之)

2010年9月13日月曜日

ソウルケイジ(誉田哲也) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

前作はシリーズの立ち上がりに相応しい派手な話しでしたが、今回の事件のほうが警察小説らしくて私は好きです。でも、舞台装置が地味でも仕掛けはそうとう凄いですよ。姫川玲子シリーズ第2弾です。



忘れかけていた伏線がああいう形で回収されるとは思いませんでした。びっくりしたというのもありますが、それよりは切なさというかやりきれなさがぐっと来る感じです。熟練のミステリ読みなら結構途中で真相見抜けちゃうのかもしれませんが、そういう意味では私は幸福な読者でした。

今回、玲子が目の敵にする同僚の日下は、前回対立したガンテツとは違ってえらく真っ当な人間です。証拠重視で理詰めに積み上げていくスタイルは確かに玲子の直感重視と正反対ですが、日下への敵対心はどう考えても筋が通っているようには見えません。

そもそも、日下のほうからは玲子を全然敵視していません。日下の好感度と比例して玲子のわがままが際立ちます。でも、彼女のそういう理不尽さこそが本シリーズ一番のみどころだから仕方ありませんね。どれだけ無茶を言っても陰湿にならないのが彼女の良いところです。

今回の事件も相当黒い展開をみせますが、誉田氏の作品にはそういう重さを感じさせない爽快感があります。事件の舞台も酷いし関係者の背景も重いのに、何故こうも軽快に読ませることが出来るのか不思議です。本書は本当にどこをとっても私好みの作品でした。

ところで、年上の部下である菊田君は、玲子のパートナーとして徐々に距離を縮めつつありますね。ちょっとキャラ的に玲子の相方として物足りない気もしていましたが、彼なら主役を食うことありえないからそれはそれでいいのかなと思うようになってきました。ほんと申し訳ない言い草ですけど(笑)

評価:★★★★★

関連レビュー:
ストロベリーナイト(誉田哲也)

2010年9月12日日曜日

ジゼル・アラン (1)(笠井スイ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

アグレッシブで無邪気で素直で、でも世間知らずのせいか何かと無防備で危ういお嬢様のお話し。新人さんなんですかね。絵もストーリーも荒削りだけど、数冊出てこなれてきたらとても良い作品になりそうです。



Amazonのレビューでも指摘されていましたが、「エマ」の森薫さんと作風が似ている感じがしますね。あちらと比べて完成度が劣るのは仕方のないところですが、あまりにも相手が悪すぎるのは不幸なところ。

良いところのお嬢さんのはずなのに、何故か大家として一人暮らしをしている「ジゼル」。店子の若い男性に肩車させたり、ストリップをみせられて感動したりと、なにかとガードの甘いところがこの少女の萌えポイントです。

ちょっと表現力が追いついていない感もありますが、ポイントとしては実に良いところをついていますね。森薫さん同様に、自身の煩悩を作品に思いっきり叩きつけていただきたいです。

まだまだ彼女の正体はなぞに包まれた部分が多いですが、今後の展開が楽しみです。大器の片鱗はばっちり感じるので、あとはいかにして二番煎じの印象を覆すかというところでしょうか。

評価:★★☆☆☆

2010年9月11日土曜日

修道女フィデルマの叡智(ピーター・トレメイン) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

7世紀のアイルランドを舞台に、若くして「法廷弁護士(ドーリィー)」の資格を持つ修道女フィデルマが活躍するミステリ短編集です。日本語翻訳版のために独自の編集がされていて、フィデルマシリーズの入門書として最適な構成となっています。



ちょっといい仲のワトソン役「エイダルフ修道士」が出てこないのは残念ですが、短編ならではの雰囲気と切れ味は期待通りでした。以下、各話の感想です。

■聖餐式の毒杯
ローマ巡礼中にたまたま訪れた小協会で殺人事件が起こります。母国ならともかくローマではなんの権限もないフィデルマですが、ドーリィーについて聞き及んでいた修道院長の依頼により、事件の解決に取り組むこととなります。いかにも玄人うけしそうな、端正な作品ですが、聞き取りが延々と続くところなど、ちょっと退屈なところもあるかもです。

■ホロフェルネスの幕舎
夫と息子殺しの嫌疑をかけられた幼なじみの依頼を受け、フィデルマが真相解明に乗り出します。この話しは本書で一番よく出来ていると思います。短編にもかかわらずどんでん返しの連続、そして意外な真相。また、族長とその後継者(ターニシュタ)というこのシリーズの典型といえる舞台設定も、当時のアイルランド文化を感じさせる良い雰囲気を醸し出しています。

■旅籠の幽霊
フィデルマが吹雪の中たまたま行きあった宿で、幽霊騒ぎの謎に挑みます。「嵐の山荘」的臨場感を感じさせる、ちょっと異色の一品です。英題「Our Lady of Death」の意味が、ラストで事件の真相と共に明らかになります。とても素晴らしいタイトルなのですが、さすがに日本語訳で同様の意味を持たせるのはちょっと難しいでしょうね。

■大王の剣
当時のアイルランドは5カ国にわかれていて、大王(ハイキング)とはその5カ国のすべてを統べる王の意味。要するに一番偉い人ですが、フィデルマがその厄介な後継者争いに巻き込まれることとなります。フィデルマが偉い人達を相手に物怖じせず敢然と立ち向かう姿が実に格好いいです。ミステリとしても「ホロフェルネスの幕舎」同様にめまぐるしい展開を見せて大変面白かったです。

■大王廟の悲鳴
「大王の剣」から3年後が舞台となります。歴代の大王が葬られる立入禁止の墳墓から悲鳴が聞こえ、確認すると人が死んでいるのが発見されます。たまたま重要な会議のため王城を訪れていたフィデルマが事件の解決に挑むことになります。お墓を舞台にちょっとホラーチックな展開ですが、ミステリとしては「大王の剣」ほどではなかったかも。

現代並みに整備されたアイルランドの法を司る人物が主人公のため、古代を扱う作品でありながら全然古臭さを感じさせません。やはりこの作品の雰囲気は短編に向いていると思います。独特の概念が結構たくさん出てくるため、このシリーズを読まれる方は最初に少し我慢していただく必要があるかもしれません。時代背景がわかってくるにつれておもしろさが増して行くので、途中で放り捨てずに読みすすめていただきたいなと思います。

評価:★★★☆☆

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2010年9月10日金曜日

ローマ人の物語〈24〉賢帝の世紀〈上〉(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

五賢帝のなかでも最重要といって良いトライアヌスですが、現存の資料が少ないため筆者が大変苦労されています。とてもバランスの取れた指導者という印象ですね。



軍事についても政治についても、天才とまではいえずとも高い水準でこなし、真面目で誠実でありながら必要とあれば冷酷に対処することも出来る。ひょっとするとカエサルよりも理想的な皇帝といえるかもしれません。あまりとんがりすぎたために、出る杭が打たれてしまったわけですから。

属州出身としては初の皇帝ですが、親の代からの元老院議員ではあったわけですから、ローマ人的にはさほどの抵抗感はなかったのかもしれませんね。もっとも大儀は必要のようで、由緒正しい血統の先帝ネルヴァから養子という形で後継者指名を受けての襲位となります。

アウグストゥス時代より定められていた領土を初めて拡張した人物です。ダキア戦役については、カエサルに習ってか皇帝自らの筆による「ダキア戦記」が執筆されたそうですが、現存していないのは残念なことです。トライアヌス円柱に描かれた絵から逐一想像を叙述に変えていく作者の労には敬服の念を感じました。純粋な小説ならもっと好き勝手できたんでしょうけどね。

史実として残されているものが少ないうえ、本人が真面目で立派過ぎることもあって、ちょっぴり読み物としては面白みに欠ける感なくもありません。ただ、インフラ工事にかける情熱についてはちょっと興味深かったです。父が土木屋だったので、立派な橋とかみると「おっ」と思ってしまうのです。

男児がうまれなかったため、従兄弟の子であるハドリアヌスが養子として後継者となります。暗黒の時代を経て実力重視が再認識されながらも、周囲を納得させるためにはやはり血のつながりが重要となるようです。

評価:★★☆☆☆

2010年9月9日木曜日

ストロベリーナイト(誉田哲也) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

誉田作品を武士道シックスティーンから入った私としては、冒頭ちょっと引いてしまいそうなほどの残虐シーンにびっくり。読み進めてさらに驚くのは、これだけベクトルが異なるにも関わらず、両作品の雰囲気がそっくりなことです。三十路直前のやんちゃな美人刑事「姫川玲子(ひめかわれいこ)」が活躍する、シリーズ第一弾です。



玲子のキャラクターが本書の一番の売りになるのでしょう。姉御肌でアクティブで頭も良いのですが、人間として完全とは程遠い性格をしています。愚痴るし弱音吐くし陰口叩くし美人をちょっと鼻にかけてるし。さらには警察官らしくない直感型の捜査。そういういかにも人間臭い彼女が、とても格好よく魅力的です。

敵の前にまずは味方との戦いが大変です。この世で二番目に嫌いな男「日下守(くさかまもる)」は、今回急性盲腸炎ということであまり出てきませんが、公安上がりのガンテツこと「勝俣健作(かつまたけんさく)」があの手この手と嫌がらせを仕掛けてきます。武士道セブンティーンの吉野先生といい、陰険なおっさん書かせるとホントうまいですね。

事件の内容はかなりショッキングでインパクトがあります。ただ、個人的には少し複雑すぎるというか、終盤ごちゃごちゃした感じもあります。まぁ、私の頭が悪くて理解が追いつかなかっただけなのですが。ミステリとしての仕込み自体は見事なのですが、クライマックスあたりはどちらかというとサスペンス風味だったため、印象がぼやけてしまった感があります。

大きな事件と個性的なキャラクターたちが目を引きますが、実は丹念な取材に基づく細かい部分の精緻な描写こそが、本作品を支えているのではないかと思います。リアルな描写があるからこそ、派手な物語が陳腐なものとならずにすんでいるのでしょう。この点は武士道シリーズでも感じたことです。

従来の警察小説のイメージからはちょっと外れた、不思議な印象の作品です。玲子と彼女の部下「菊田」との関係はどうなるんでしょうか。申し訳なくもちょっと役者不足な感がなくもないのですが、玲子の性格を考えればお似合いなのかもしれません。恋話の展開も楽しみにしておきます。

評価:★★★☆☆

2010年9月8日水曜日

ラ・パティスリー(上田早夕里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

表紙のイラストに釣られて購入。また中村佑介氏です。パティシエの世界を端正に描いた清新な作風に好感をもちました。ちなみに筆者は第4回小松左京賞受賞されているとのことですが、それっぽい要素は少しもありません。



製菓学校を卒業したばかりのパティシエール見習い「森沢香織」と記憶喪失の凄腕パティシエ「市川恭也」の二人が主人公です。恭也の過去探索、菓子業界の舞台裏、香織の成長といったところがテーマとなっています。若い男女のことなので、ちょっぴり甘く切ないロマンスもないことはありませんが、期待しすぎると肩透かしかもしれません。

恭也登場の導入がちょっと不思議な感じで、てっきりSFなのかと思っていたら全く違いました。別にSFじゃなくても構わないのですが、恭也の正体ついてはちょっとがっかりというか腑に落ちない感じがしました。そりゃ現実なんてそんなもんでしょうけれど、もっとワクワク感あふれる真相を期待してしまいました。

一応連作短編のような形式になっています。仕込みの模様や百貨店との関係など、菓子店をめぐるさまざまなディテールが細かく描かれている点は大変良かったです。筆致も全体的に淡々としていて、作風や登場人物のキャラクターはとても私好みです。

それだけに、恭也の正体に意外性がなかったり、二人の恋の行方がなんとなく中途半端だったりしたのは残念ですね。満を持して登場したオーナーの息子についても、ふーんという感じ。続編がでるんならこれでもいいのかもしれませんけれど、これ以上話の膨らみ用もなさそうな感じはします。

私は基本的に連作短編という形式が大好きなのですけれど、本書については単にパティスリーの日常を描く純粋な短編集の方が収まりが良かったのではないかなという気がします。大きな物語よりは小技の冴えがみどころの作家さんという印象です。作風自体はホント良いと思います。

評価:★★☆☆☆