取り立てて大胆な仕掛けはありませんが、序盤から丹念に仕込まれた伏線が徐々につまびらかになっていく、何とも正攻法な構成の佳作です。エッジウェア卿夫人のいかにも大女優らしい壊れっぷり(超偏見)も素敵でした。
ヘイスティングズの登場するポアロものは、ドタバタ感が強くて高く評価しにくい作品が多い印象だったのですが、本書についてはすんなり楽しめたように思います。ヘイスティングズ自身のキャラクターについては嫌いではないので、彼が道化にならない作品が私的に好ましく感じられるようです。
福島正実さんの翻訳とも相性が良かったのかもしれません。ポアロの自信過剰なところが可愛く思えましたし、ヘイスティングズについてもただの間抜けでなくいかにも誠実な人柄だと感じられました。間抜け役はヘイスティングズの代わりにジャップ警部がしっかり果たしてくれてますし(笑)
冒頭から述べられている通り、本作品においてポアロはちょっとした失敗をします。その構図自体は前に読んだ「邪悪の家」と同様なのですけれど、前作では本当にポアロがへぼ探偵にしか見えなかったのに対し、本作ではそれなりにきっちり格好を付けてくれます。
本作には魅力的な女性がたくさん登場しますが、やはりヒロイン格となるのはエッジウェア卿未亡人にして女優の「ジェーン・ウィルキンスン」といって良いでしょうね。教養があるのかないのか、見たまま天然なのか実は計算高いのか、いかにも懐をのぞかせない胡散臭さが、実は事件の謎に大きく関わってきます。
以下ネタバレが入るので反転でお願いします。
ポアロシリーズについてはかなり勧善懲悪というか、良い人が報われ悪い人が裁かれるという印象があったので「カーロッタ・アダムズ」が殺されたのにはびっくりしました。それまでは彼女が真のヒロインなのかなと思いながら読んでいたので。
先ほどヘイスティングズがあまり間抜けでなかったと書きましたが、実際には「ロナルド・マシュー」殺害の引き金を引く痛恨の失敗をしていますね。ただ、今回は彼自身の過失とは思えない状況だったので、ヘイスティングズファンの私としてもこの扱いに不満はありません(笑)。
怪しい人物がころころ入れ替わる終盤のめまぐるしい展開は、いかにもクリスティらしくてよかったと思います。本作でとりわけ感心したのは伏線の仕込み方です。特にジェーンがカーロッタの人物模写を喜んでいた背景には思わず膝を打ちました。彼女の性格からして喜ぶのは妙だなと思っていたので。
多少の不満点もないでもありません。意味ありげだった執事が結局空気のままフェードアウトしたり、肝心のクライマックスでなぜか最重要人物のジェーンが立ち会っていなかったり。まぁ、ミスディレクションということはわかるのですが、ちょっと道具の無駄遣いかなという感じはしました。
以上、ネタバレ終わり。
というように多少の不満点はあったものの、総じて良くできたミステリだったように思います。それにやはり翻訳の雰囲気が大きかったでしょうか。私がヘイスティングズものに不満を持つのは、彼が無下に扱われることに我慢ならないからだと改めて気づかされてしまいました(笑)
評価:★★★☆☆
2011年7月20日水曜日
2011年7月17日日曜日
ファウンデーションの彼方へ(アイザック・アシモフ)
前3部作から約30年を隔てて発表された、ファンデーションシリーズ第4作です。前作までのちょっとトリッキーな構成とは趣きを異にする、正面突破の大作。私も本書は久しぶりに読みましたが、記憶に残っていたよりセンスオブワンダーしてましたね。
セルダンプランも折り返しの500年。すべてが順調にいっていることに逆に疑いを抱いたターミナスの若き議員「ゴラン・トレヴィズ」ですが、先鋭的な主張を市長から疎まれ、地球探しを口実にターミナスを追放される事態に陥ります。市長の内に秘めた狙い、第2ファウンデーションの思惑、そして第3勢力「ガイア」の正体とは?
ファンや編集者のプレッシャーに押された形での執筆だそうで、半ば伝説となっていた3部作の続編ということもあって、本人も相当書きづらかったようですが、それを本作のような形で昇華させたのは見事というほかありません。アシモフの数ある著作のなかでも指折りの傑作に仕上がっているかと思います。
本作品の特徴としてよく言われるのがアシモフの既存作品群における世界観の統合です。筆者の著作においては「銀河帝国」と並んであまりにも有名な「ロボット」シリーズの流れを組み込んだ他、「永遠の終わり」などの作品設定にも言及されています。
ただ、それらの作品を読んでいなくても、十分に本書だけで楽しめる内容となっています。従来の作品を読み込んでいるファンへのサービスを盛り込みつつ、新規の読者にも十分配慮するバランス感覚は流石の一言。ただ、単体でも読める内容とはいえ、3部作についてはやはり先に読んでおいた方が無難でしょう。
私が本書を読むのは20年ぶりくらいになるでしょうか。たまたまアシモフにハマっていた時期に、書店で3部作の続編がハードカバーで発売されているのを発見した驚きは今でもよく覚えています。高校生時代でお小遣いもあまり自由にならないなか、迷わず手に取りレジに持っていきました。
あとがきでも触れられていますが、当時の翻訳と比べて主人公の名前が「トレヴァイズ」から「トレヴィズ」に、「ゲイア」が「ガイア」にかわっています。人名はともかくとして、後者についてははラブロックの思想が下敷きになっているはずなので、日本語的にも「ガイア」のほうが通りが良いように思えますね。
ヒューゴー賞を受賞しているだけあって、本書は単独でも高いエンターテインメイント性を備えていますが、実は続編に向けてちょっぴり含みが残されています。第5作「ファウンデーションと地球」とあわせて「ゴラン・トレヴィズ」編と言っても良い内容で、続巻ではロボットものとの融合度合いがますます強くなっていきます。
文庫版では上下巻となる、計700ページに及ぶ大著。それなりに読むのに骨が折れる作品ではありますが、構成自体はむしろシンプルといってよいくらいのものです。3部作が技なら本書は力の1冊。まさに後々まで語り継がれるにふさわしい、SF史上に残る傑作と言ってよいでしょう。
評価:★★★★★
セルダンプランも折り返しの500年。すべてが順調にいっていることに逆に疑いを抱いたターミナスの若き議員「ゴラン・トレヴィズ」ですが、先鋭的な主張を市長から疎まれ、地球探しを口実にターミナスを追放される事態に陥ります。市長の内に秘めた狙い、第2ファウンデーションの思惑、そして第3勢力「ガイア」の正体とは?
ファンや編集者のプレッシャーに押された形での執筆だそうで、半ば伝説となっていた3部作の続編ということもあって、本人も相当書きづらかったようですが、それを本作のような形で昇華させたのは見事というほかありません。アシモフの数ある著作のなかでも指折りの傑作に仕上がっているかと思います。
本作品の特徴としてよく言われるのがアシモフの既存作品群における世界観の統合です。筆者の著作においては「銀河帝国」と並んであまりにも有名な「ロボット」シリーズの流れを組み込んだ他、「永遠の終わり」などの作品設定にも言及されています。
ただ、それらの作品を読んでいなくても、十分に本書だけで楽しめる内容となっています。従来の作品を読み込んでいるファンへのサービスを盛り込みつつ、新規の読者にも十分配慮するバランス感覚は流石の一言。ただ、単体でも読める内容とはいえ、3部作についてはやはり先に読んでおいた方が無難でしょう。
私が本書を読むのは20年ぶりくらいになるでしょうか。たまたまアシモフにハマっていた時期に、書店で3部作の続編がハードカバーで発売されているのを発見した驚きは今でもよく覚えています。高校生時代でお小遣いもあまり自由にならないなか、迷わず手に取りレジに持っていきました。
あとがきでも触れられていますが、当時の翻訳と比べて主人公の名前が「トレヴァイズ」から「トレヴィズ」に、「ゲイア」が「ガイア」にかわっています。人名はともかくとして、後者についてははラブロックの思想が下敷きになっているはずなので、日本語的にも「ガイア」のほうが通りが良いように思えますね。
ヒューゴー賞を受賞しているだけあって、本書は単独でも高いエンターテインメイント性を備えていますが、実は続編に向けてちょっぴり含みが残されています。第5作「ファウンデーションと地球」とあわせて「ゴラン・トレヴィズ」編と言っても良い内容で、続巻ではロボットものとの融合度合いがますます強くなっていきます。
文庫版では上下巻となる、計700ページに及ぶ大著。それなりに読むのに骨が折れる作品ではありますが、構成自体はむしろシンプルといってよいくらいのものです。3部作が技なら本書は力の1冊。まさに後々まで語り継がれるにふさわしい、SF史上に残る傑作と言ってよいでしょう。
評価:★★★★★
2011年7月4日月曜日
神様のカルテ(夏川草介)
穏やかな雰囲気に心温まる、地方病院を舞台とした医療小説です。楽しく読めましたけれど、「奇跡」とか「涙」とかいった紹介文は、ちょっとハードルあげ過ぎではないかという気がします。
過酷な地方の医療現場を題材としながらも、特にスリリングな事件も起きず、淡々と話が進んでいきます。3話構成のそれぞれで一応の区切りはありますが、連作中編といった感じでしょうか。
主な舞台は病院とボロアパート。隣人たちも個性的で良い味を出していますが、そんな安っぽい住まいに可憐な奥さんと住み続けるのは、一般的には理解しがたいところです。まあ、写真家の奥さんも相当な変人ではありますが。
貧乏な絵描きや学士たちと同類的な感じで仲良くしている主人公。しかし医局からはみ出たとはいえ、立派な医師であるところの主人公は比較的勝ち組の部類に入るはずです。しかも美人妻。
そんな彼に対して嫉妬のかけらも見せない隣人たちの寛大さには心うたれます。アパートの住人たちだけでなく、病院の患者やナースも皆よい人ばかり。良い人に囲まれた良い主人公が良い仕事をするお話です。
帯には「奇跡が起きる」などと書かれていますが、特になにも起こっていないような気がします。裏書きには「日本中を温かい涙に包み込んだ」などとありますが、本書で涙まで流せるのは、相当感受性の強い素敵な人だと思います。
内容紹介のあおり文には首を傾げざるを得ないもののの、過度な先入観を持たずに読めば十分楽しめる作品です。漱石の草枕を模したという主人公の妙な口調も、慣れてくればそれほど気になりません。
あまりに登場人物が良い人ばかりで、ストーリー上「毒」という要素が皆無なので、いわゆる読書通な人には評価されにくい作品かと思いますが、変に力の入らない軽文好きの方々には文句無しにお勧めの一冊です。
評価:★★★☆☆
過酷な地方の医療現場を題材としながらも、特にスリリングな事件も起きず、淡々と話が進んでいきます。3話構成のそれぞれで一応の区切りはありますが、連作中編といった感じでしょうか。
主な舞台は病院とボロアパート。隣人たちも個性的で良い味を出していますが、そんな安っぽい住まいに可憐な奥さんと住み続けるのは、一般的には理解しがたいところです。まあ、写真家の奥さんも相当な変人ではありますが。
貧乏な絵描きや学士たちと同類的な感じで仲良くしている主人公。しかし医局からはみ出たとはいえ、立派な医師であるところの主人公は比較的勝ち組の部類に入るはずです。しかも美人妻。
そんな彼に対して嫉妬のかけらも見せない隣人たちの寛大さには心うたれます。アパートの住人たちだけでなく、病院の患者やナースも皆よい人ばかり。良い人に囲まれた良い主人公が良い仕事をするお話です。
帯には「奇跡が起きる」などと書かれていますが、特になにも起こっていないような気がします。裏書きには「日本中を温かい涙に包み込んだ」などとありますが、本書で涙まで流せるのは、相当感受性の強い素敵な人だと思います。
内容紹介のあおり文には首を傾げざるを得ないもののの、過度な先入観を持たずに読めば十分楽しめる作品です。漱石の草枕を模したという主人公の妙な口調も、慣れてくればそれほど気になりません。
あまりに登場人物が良い人ばかりで、ストーリー上「毒」という要素が皆無なので、いわゆる読書通な人には評価されにくい作品かと思いますが、変に力の入らない軽文好きの方々には文句無しにお勧めの一冊です。
評価:★★★☆☆
2011年7月1日金曜日
ジョーカー・ゲーム(柳 広司)
「魔王」結城中佐率いる天才スパイ集団の活躍を描いたミステリ短編集です。戦前のハードでシビアな世界を舞台とする割りに、クールで無駄のない筆致のためか、存外に読みやすい作品でした。極上の雰囲気小説ですね。
軍国主義的な重たい雰囲気を覚悟していたのですが、その予想を覆してくれたのがスパイたちに叩き込まれている徹底的な客観性です。天皇という存在の正統性を議論し、何があろうと死なない、死なせないことを重要視する合理的思考。
私も平均的な日本人としてそれなりに天皇陛下に敬意を持ち、ほどほどに日本への愛国心も持っていますが、何事につけても盲目になってしまってはインチキ宗教と変わりません。極力シビアであることが要求されるスパイの世界においては尚更です。
とはいえ、あまりに客観的、合理的精神が行き過ぎると、裏切りの心配も当然に出てきます。愛国心など犬の餌にもならないと考えられる彼らを引き止めるものとは何なのか。
天才集団におけるこの強烈な自負心こそが、彼らをつなぎとめる根となっているのです。あらゆる人間的なものをそぎ落とすことが要求されるスパイという人種ならではの境地といえるでしょう。
元凄腕のスパイ結城中佐が指導する諜報員養成学校「D機関」。佐藤優さんの解説によれば、実際に戦前に存在した「陸軍中野学校」がモデルとなっているのだとか。
陸軍中野学校については、Wikipediaの説明を読む限りでもその凄まじさは想像に難くありませんが、本書に関してはそれほど凄惨な感じではありません。D機関という架空の団体として扱うことで、ミステリとしての読みやすさを実現しているということでしょうか。
とにかく本書については、スパイ小説である前に良質なミステリだというのが私の感想です。単純に諜報活動に焦点をあてれば、もっと色々えげつない演習が可能そうなところ、あえて筆致を抑えることで謎への焦点がより鮮明になっているように思えます。
本書を読んで懐かしい気持ちになったのは、なんとなく母の蔵書で読んだ胡桃沢耕司さんのスパイ小説を思い出したためです。あちらはエロ成分も結構入ってましたけど(笑)。もう手に入りにくいかもしれませんが、ご興味のある向きには探してみてはいかがでしょう。
評価:★★★☆☆
おすすめ作品:
軍国主義的な重たい雰囲気を覚悟していたのですが、その予想を覆してくれたのがスパイたちに叩き込まれている徹底的な客観性です。天皇という存在の正統性を議論し、何があろうと死なない、死なせないことを重要視する合理的思考。
私も平均的な日本人としてそれなりに天皇陛下に敬意を持ち、ほどほどに日本への愛国心も持っていますが、何事につけても盲目になってしまってはインチキ宗教と変わりません。極力シビアであることが要求されるスパイの世界においては尚更です。
とはいえ、あまりに客観的、合理的精神が行き過ぎると、裏切りの心配も当然に出てきます。愛国心など犬の餌にもならないと考えられる彼らを引き止めるものとは何なのか。
自分ならこの程度のことは出来なければならない。(P31)
天才集団におけるこの強烈な自負心こそが、彼らをつなぎとめる根となっているのです。あらゆる人間的なものをそぎ落とすことが要求されるスパイという人種ならではの境地といえるでしょう。
元凄腕のスパイ結城中佐が指導する諜報員養成学校「D機関」。佐藤優さんの解説によれば、実際に戦前に存在した「陸軍中野学校」がモデルとなっているのだとか。
陸軍中野学校については、Wikipediaの説明を読む限りでもその凄まじさは想像に難くありませんが、本書に関してはそれほど凄惨な感じではありません。D機関という架空の団体として扱うことで、ミステリとしての読みやすさを実現しているということでしょうか。
とにかく本書については、スパイ小説である前に良質なミステリだというのが私の感想です。単純に諜報活動に焦点をあてれば、もっと色々えげつない演習が可能そうなところ、あえて筆致を抑えることで謎への焦点がより鮮明になっているように思えます。
本書を読んで懐かしい気持ちになったのは、なんとなく母の蔵書で読んだ胡桃沢耕司さんのスパイ小説を思い出したためです。あちらはエロ成分も結構入ってましたけど(笑)。もう手に入りにくいかもしれませんが、ご興味のある向きには探してみてはいかがでしょう。
評価:★★★☆☆
おすすめ作品:
2011年6月28日火曜日
ファウンデーション3部作(アイザック・アシモフ)
「銀河帝国興亡史」というサブタイトルのイメージで読み進めると面食らうかもしれません。いかにもアシモフらしいミステリスピリッツに溢れた連作中・短編集です。とりわけ2巻収録の「ザ・ミュール」および3巻収録の「ファウンデーションによる探索」については唸らされること請け合いです。
天才「ハリ・セルダン」が「心理歴史学」を駆使した結果として導かれた銀河帝国滅亡の予言。滅亡自体は避けえぬものとしながらも、その後の混乱期を3万年から1,000年に短縮しようと「セルダン・プラン」が計画されます。そして、その種子となるべく銀河辺境に設立されるのが「ファウンデーション」です。
巨匠アシモフの手による「銀河帝国」ものなわけですが、いわゆる王道っぽいイメージからは随分外れた作品ではないかと思います。宇宙艦隊による戦闘シーンなどはあくまで二の次。主人公達が機知機略を駆使して難局を乗り越えていくのがシリーズを通した主眼となっています。
邦題サブタイトルからも予測できるかもしれませんが、本書はギボンの有名な歴史書「ローマ帝国衰亡史」から着想を得ているのだそうです。とりわけ1巻については、プランの歴史的転換点を拾い上げる形の連作5話構成になっていて、次々と年代が移り変わっていく軽快感が読者を飽きさせません。
間違いなくシリーズの中核をなしているのが「セルダン・プラン」という名の神の手的予定調和。私なりに各巻に副題をつけるとすれば、
セルダンの駆使した「心理歴史学」というのは、1巻のP28から引用すると、
そして、集団という没個性を扱っているだけでは予測不可能な「ミュール」という異能力者の登場により、プランは壊滅的な危機の縁に立たされてしまいます。
マクロな視点の危機を克服する平凡な一女性の機知。さらにはセルダン・プラン自体に備えられていた危機対処手段としての「第2ファウンデーション」の実体。
予定調和的な作品にありがちな退屈さを絶妙なタイミングで崩してくるところに本書のストーリー展開としての妙がありますが、かといって「セルダン・プラン」という権威に対するカタルシスが失われるわけでもありません。
この辺りのバランス感覚こそが、本シリーズが支持されている一番の理由ではないかと思います。アシモフは読者が何を喜ぶのかについての配慮がつくづく行き届いているようです。
今回ご紹介した3部作は1950年ごろに発表されたもので、私自身が最初に読んだのも今から20年ほど前の高校生時代です。今回改めて読み返してみて、科学技術的なところはともかくストーリーの面白さは全く色あせていないなと感じました。
正直なところ、若干技巧に走りすぎて物語の凄みという点で損をしているかなというところもなくはないのですが、約30年を隔てて発表された第4巻「ファウンデーションの彼方へ」ではその辺りも克服した全く異種の作品に仕上がっていますので、興味をもたれた方には是非ご一読いただきたいです。
評価:★★★★☆
巨匠アシモフの手による「銀河帝国」ものなわけですが、いわゆる王道っぽいイメージからは随分外れた作品ではないかと思います。宇宙艦隊による戦闘シーンなどはあくまで二の次。主人公達が機知機略を駆使して難局を乗り越えていくのがシリーズを通した主眼となっています。
邦題サブタイトルからも予測できるかもしれませんが、本書はギボンの有名な歴史書「ローマ帝国衰亡史」から着想を得ているのだそうです。とりわけ1巻については、プランの歴史的転換点を拾い上げる形の連作5話構成になっていて、次々と年代が移り変わっていく軽快感が読者を飽きさせません。
間違いなくシリーズの中核をなしているのが「セルダン・プラン」という名の神の手的予定調和。私なりに各巻に副題をつけるとすれば、
- 偉大なるセルダン・プラン
- セルダン・プランの危機
- セルダン・プランの克服
セルダンの駆使した「心理歴史学」というのは、1巻のP28から引用すると、
一定の社会的・経済的刺激に対する人間集団の反応を扱う数学の一分野であり、
扱われる人間集団が有効な統計処理を受けられるだけの十分な大きさを持っているという仮定が、その前提条件になっているとのことです。未来予測というといかにも胡散臭げですが、結局それをある一定の大きさを持つ集団にしか適用できないとすることで、もっともらしさを出しているわけです。
そして、集団という没個性を扱っているだけでは予測不可能な「ミュール」という異能力者の登場により、プランは壊滅的な危機の縁に立たされてしまいます。
マクロな視点の危機を克服する平凡な一女性の機知。さらにはセルダン・プラン自体に備えられていた危機対処手段としての「第2ファウンデーション」の実体。
予定調和的な作品にありがちな退屈さを絶妙なタイミングで崩してくるところに本書のストーリー展開としての妙がありますが、かといって「セルダン・プラン」という権威に対するカタルシスが失われるわけでもありません。
この辺りのバランス感覚こそが、本シリーズが支持されている一番の理由ではないかと思います。アシモフは読者が何を喜ぶのかについての配慮がつくづく行き届いているようです。
今回ご紹介した3部作は1950年ごろに発表されたもので、私自身が最初に読んだのも今から20年ほど前の高校生時代です。今回改めて読み返してみて、科学技術的なところはともかくストーリーの面白さは全く色あせていないなと感じました。
正直なところ、若干技巧に走りすぎて物語の凄みという点で損をしているかなというところもなくはないのですが、約30年を隔てて発表された第4巻「ファウンデーションの彼方へ」ではその辺りも克服した全く異種の作品に仕上がっていますので、興味をもたれた方には是非ご一読いただきたいです。
評価:★★★★☆
2011年6月26日日曜日
0能者ミナト 2(葉山透)
霊感皆無でも科学と論理で怪異に立ち向かう、ダークヒーロー「九条湊」のシリーズ第2弾です。超常と科学がまざった不思議現象の解明ロジックは相変わらずお見事でしたが、今回は構成もちょっと捻っていてハッとさせられます。
ミナトが沙耶とユウキを引き連れて事件に立ち向かうという構図は前回と変わらず。こういうお約束的なパターン化は、安心感があってよいですね。シリーズとして長続きしそうです。
ただ、今回はピンチっぽくなるのが強キャラのミナトなため、緊張感という点では若干落ちるかもしれません。正直に言うと、沙耶がミナトにネチネチいたぶられるシーンをもっとみたかった気が・・・沙耶分が足りない!
沙耶もユウキも普通に役立っている点が物足りなくはあったのですが、シリーズとしてみた場合、少年少女がミナトのパートナーとしてしっかり立ち居地を固める必要性はあったのかもしれません。
以下、少しネタバレが入るので既読の方のみ反転でお願いします。
前巻が2話構成で、今回も目次によると2話 + αだったので、当然中短編集かと思って読んでいたらまさかの長編構成。しかも1話のあの引き。すっかり油断していました。2巻目だからこその仕掛けという感じです。
1話のあの続き方は、いかにもホラーっぽい雰囲気が出ていて良かったですね。ただ、あのまま終わりでも味があったかもしれないなという気はしますが。ホラー小説ではああいうオチも結構ありますよね。
今回の蜃気楼の怪異は、前回の2話と比べると個人的にインパクトはそれほどでもなかったですが、不思議感の演出はなかなかだったと思います。あの悪意のない怪異は、超常現象と科学現象をミックスさせた、いかにも本シリーズらしい見せ方です。優しいエンディングも素敵でした。
次回は「夢」というタイトルの沙耶が活躍する話が入るらしいですが、雑誌掲載分でしょうか。やはり沙耶がいじられまくるのが個人的には一番楽しみなので、大いに期待しています(笑)
評価:★★★☆☆
関連レビュー:
0能者ミナト(葉山透)
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沙耶もユウキも普通に役立っている点が物足りなくはあったのですが、シリーズとしてみた場合、少年少女がミナトのパートナーとしてしっかり立ち居地を固める必要性はあったのかもしれません。
以下、少しネタバレが入るので既読の方のみ反転でお願いします。
前巻が2話構成で、今回も目次によると2話 + αだったので、当然中短編集かと思って読んでいたらまさかの長編構成。しかも1話のあの引き。すっかり油断していました。2巻目だからこその仕掛けという感じです。
1話のあの続き方は、いかにもホラーっぽい雰囲気が出ていて良かったですね。ただ、あのまま終わりでも味があったかもしれないなという気はしますが。ホラー小説ではああいうオチも結構ありますよね。
今回の蜃気楼の怪異は、前回の2話と比べると個人的にインパクトはそれほどでもなかったですが、不思議感の演出はなかなかだったと思います。あの悪意のない怪異は、超常現象と科学現象をミックスさせた、いかにも本シリーズらしい見せ方です。優しいエンディングも素敵でした。
次回は「夢」というタイトルの沙耶が活躍する話が入るらしいですが、雑誌掲載分でしょうか。やはり沙耶がいじられまくるのが個人的には一番楽しみなので、大いに期待しています(笑)
評価:★★★☆☆
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2011年6月16日木曜日
邪悪の家(アガサ・クリスティー)
なんとも評価の難しい作品ですが、ポアロ嫌いな人にはお勧めです。9割くらいまで読んだ時点でビッグ4並みの駄作だと思っていたら、最後の最後で実にクリスティらしい怒涛の展開が待っていました。
とにかくポアロが後手に回り続け翻弄されまくるので、アンチポアロの方には溜飲が下がるのではないでしょうか。名探偵の面影一片もなし。いつもながらのちょっと鼻につく自画自賛が、愛嬌でなくうっとうしく感じられてしまいます。
ヘイスティングズが登場すると、ポアロのそういう側面が際立つような気がしますね。ポアロ自身にとっては肝胆相照らす無二の親友だとしても、読者にとっては彼の負の側面を写す出来の悪い鏡のような存在という気が・・・
真犯人については私もなんとなく感づいていましたが、動機やその他の周辺事情が一気に押し寄せてくる最終盤の展開はお見事でした。途中のグダグダだった捜査過程を一気に吹き飛ばしてくれたと思います。
ただ、正直この話は「ポアロ最大の失敗」とサブタイトルをつけても良いくらい、ポアロにとって最初から最後まで冴えない事件でした。殺人事件にしたところで、結局ポアロに責任の帰するところがかなり大きかったように思いますし。
以下、ネタバレになるので既読の方のみ反転でお願いします。
ポアロが裏をかかれまくっている時点で、犯人はあの人意外ありえないなとは思っていました。ただ、動機については全然想像がつかなかったので、真相についてはかなりびっくりさせられました。
しかし、マギーの本名についてはフェアといって良いのでしょうかね。一応伏線らしきもののも仕込まれているとはいえ、人によっては頭にきてもおかしくないレベルと思います。私は「フェア」にあまりこだわらないので素直に楽しめましたが。
本書で感心したのは、クライマックスでの畳み掛け方。遺言状の件、窓ガラスの不審人物の件、そして事件の真相が次々と個別に明らかになっていく展開はお見事としか言いようがありません。
それぞれの状況が事件を複雑にしてしまう手口はクリスティ十八番のパターンといって良いと思いますが、本作でもそれが見事にはまったように思います。最後の腕時計の演出もお見事でした。
話の展開はいまいち、謎解きは秀逸という、実に評価の難しい作品です。ただ、個人的にはトリックのためだけにミステリを読んでいるわけではないので、あまり高い点数はつけられないかなという気がします。できれば格好良いポアロが読みたいのです。
新訳版も最近出ているみたいですね。
本書の訳ではヘイスティングズの口調などちょっと気になるところもあったので、新しいほうについても機会があれば目を通してみたいです。できればタイトルも創元推理文庫版の「エンド・ハウスの怪事件」に戻して欲しかったかなぁ・・・
評価:★★☆☆☆
とにかくポアロが後手に回り続け翻弄されまくるので、アンチポアロの方には溜飲が下がるのではないでしょうか。名探偵の面影一片もなし。いつもながらのちょっと鼻につく自画自賛が、愛嬌でなくうっとうしく感じられてしまいます。
ヘイスティングズが登場すると、ポアロのそういう側面が際立つような気がしますね。ポアロ自身にとっては肝胆相照らす無二の親友だとしても、読者にとっては彼の負の側面を写す出来の悪い鏡のような存在という気が・・・
真犯人については私もなんとなく感づいていましたが、動機やその他の周辺事情が一気に押し寄せてくる最終盤の展開はお見事でした。途中のグダグダだった捜査過程を一気に吹き飛ばしてくれたと思います。
ただ、正直この話は「ポアロ最大の失敗」とサブタイトルをつけても良いくらい、ポアロにとって最初から最後まで冴えない事件でした。殺人事件にしたところで、結局ポアロに責任の帰するところがかなり大きかったように思いますし。
以下、ネタバレになるので既読の方のみ反転でお願いします。
ポアロが裏をかかれまくっている時点で、犯人はあの人意外ありえないなとは思っていました。ただ、動機については全然想像がつかなかったので、真相についてはかなりびっくりさせられました。
しかし、マギーの本名についてはフェアといって良いのでしょうかね。一応伏線らしきもののも仕込まれているとはいえ、人によっては頭にきてもおかしくないレベルと思います。私は「フェア」にあまりこだわらないので素直に楽しめましたが。
本書で感心したのは、クライマックスでの畳み掛け方。遺言状の件、窓ガラスの不審人物の件、そして事件の真相が次々と個別に明らかになっていく展開はお見事としか言いようがありません。
それぞれの状況が事件を複雑にしてしまう手口はクリスティ十八番のパターンといって良いと思いますが、本作でもそれが見事にはまったように思います。最後の腕時計の演出もお見事でした。
話の展開はいまいち、謎解きは秀逸という、実に評価の難しい作品です。ただ、個人的にはトリックのためだけにミステリを読んでいるわけではないので、あまり高い点数はつけられないかなという気がします。できれば格好良いポアロが読みたいのです。
新訳版も最近出ているみたいですね。
本書の訳ではヘイスティングズの口調などちょっと気になるところもあったので、新しいほうについても機会があれば目を通してみたいです。できればタイトルも創元推理文庫版の「エンド・ハウスの怪事件」に戻して欲しかったかなぁ・・・
評価:★★☆☆☆
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