このミス3位をはじめ、新人でありながら各ミステリランキングの上位を占めた話題のミステリ短編集。外国を舞台にした雰囲気ある舞台設定に加え、SFというかホラーっぽい要素も入り混じり、なんとも独特な世界観を作り上げています。専門筋の評価が高くなるのもわからなくはありません。
世界各地を取材して回る雑誌記者「斉木」が主人公となります。一応彼が探偵役ということになりますが、それほど名探偵っぽい感じではありません。どちらかというと巻き込まれがたで、彼が出くわすのは「事件」というより「困難」です。
本書の特徴のひとつは、斉木が取材して回る各地域の文化や風情がミステリに色濃く反映している点です。アフリカの砂漠やらロシア正教の教会やらアマゾンの奥地やら、それらの舞台がミステリの材料として実に巧みに活かされています。
作風としてはいかにも創元系っぽいなという感じです。ミステリファンが好みそうな雰囲気ある作品。ただし、それだけにはとどまらない、一風変わった隠し味が各話のラストで待っています。ちょっとアンフェアな感もあるため評価は分かれそうですが、良くも悪くもこの部分が本書の強烈な個性となっています。
もっともその個性の部分、私としてはちょっと苦手な感じがしました。文体についても読みやすいとはいいくにですね。文章が下手ということは決してないのですが、説明されたシチュエーションが頭のなかに入ってきにくいなという印象が常にありました。
佳作といわれれば同意できるのですが、各種のミステリランキングで上位に入っているのは、個人的には少し不思議な感じもします。確かに新人さんの作品としては良くできていると思うのですが・・・
ただ、ミステリ玄人の方々が本書を高く評価したがる気持ちもわかるような気がします。なにしろ本格ミステリの枠にありながら非常なユニーク性を併せ持っているため、その部分が変にこなれてしまうのはもったいないと思えてしまうのかもしれません。確かに稀有な才能という点では全く異論ありません。
キャラ読み、ストーリー読みの私としては、斉木にもう少し色がついてくると嬉しいかもしれません。本書ではちょっと透明人間っぽかったので。もっとも、そうなると作品のイメージががらっと崩れてしまいそうな気もするので、なかなか難しいところですね。
評価:★★☆☆☆
2010年12月22日水曜日
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