単に理念的なことを掲げるだけでなく、お金のことを真剣に考えた医療改革を目指し、実際に行動に移している筆者は凄いの一言です。アメリカ、タイ、インドなど外国の医療事情も紹介されていて、なかなか考えさせられました。
以前読んだ「街場のメディア論」でも、医療問題について少し触れられていたのですが、いまひとつ私が受け付けなかったのは、立ち居地がどこまでいっても「反市場」にあったためです。
その点、本書では儲けを出すことの重要性を熟知しているところに共感を覚えました。きれいごとを言っても利潤が出なければ長続きしないですから。ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)というやつです。
医療崩壊が現実味を帯びてきたなかで、筆者が主張しているのは2点。医療コストの削減と外貨獲得です。
医者不足などが顕著となってきていますが、その元凶を筆者は国民皆保険制度と診療報酬の定額制に求めています。安すぎるために無駄な患者が増え、一方で医師は儲かる治療だけに専念する。
この両制度、過去には機能していたものと一定の評価はされているものの、一方で既に現実にはそぐわないものになっていると筆者は断じています。
患者自身によるボランティア制については、医療コスト引き下げはもちろんのこと、より医者と患者の距離を近づける医療の「質」の面での貢献のほうが、むしろ大きいのかもしれません。
壊滅的に見える日本の医療ですが、医療の崩壊という現象自体は、何も日本だけで見られる特別なものというわけでもないようです。
特に貧困層に焦点を当てた場合、もとより国民皆保険制度の無いアメリカはもちろん、成功事例にみえるタイやインドにしても、恩恵を受けているのは外国人や富裕者層にかぎられているのだとか。
日本の医療水準自体は高いものなので、それを外貨獲得の手段とみるのは当然考えられるべきことです。筆者のすごいところは、それを貧困層も含めた全社会的な観点から実現しようとしているところです。
規制が多く、公機関の動きも遅い国内に対して、筆者はカンボジアでモデルケースを作り、それを逆輸入しようとしているのだとか。
文章で読むだけだと理想論的に過ぎる感もなくはないのですが、それを実際に行動に移しているのですから、もう外からとやかく言いようがないですね。
なんというか、日本の医療の実情を知るうえでも有益な書ではありますが、それ以上に筆者の理想を掲げる想像力と、実際に形にする行動力には敬服せざるを得ません。私も見習いたいです。
評価:★★★★☆
2011年2月5日土曜日
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