2011年2月10日木曜日

妙なる技の乙女たち(小川一水) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

シンガポール南東に位置するフィガロ諸島。軌道エレベーターとその周辺経済圏を舞台に、「働く女性」をテーマとした近未来SF短編集です。全8話、これほど好みの作品ばかり揃うのも珍しいかもしれません。



SF的には良く扱われる題材かと思いますが、海上タクシーや保母さんなど周辺部を支える職業にスポットをあてられているのが面白いです。以下、各話の感想です。

■ 天上のデザイナー
うだつの上がらないやんちゃな女性デザイナー「京野歩(きょうのすすむ)」が、宇宙服デザインのコンペに挑むお話し。なぜ宇宙服はあれほど不恰好なのか?彼女を支える男達が、格好いいような悪いような良い味出してます。

■ 港のタクシー艇長(スキッパー)
父の遺した舟で海上タクシーを営む「歌島水央(うたじまみずお)」。男社会のなか気を張り詰める彼女に対して、いつものごとく引退を勧めるメッツラー少将。二人きりの気詰まりなクルージングのなかで事件は起こります。メッツラーおじさん、超格好いいです。

■ 楽園の島、売ります
環境保護区を住宅地として売り出す不動産業者「幡森香奈江(はたもりかなえ)」と、そのパートナーにして進化生態学の専門家「ルクレース・マッキンデール」。二人の意見が対立するある物件が、徐々にきな臭い様相を見せていきます。女性二人の大人な友情物語。

■ セハット・デイケア保育日誌
緩い雰囲気の保育施設になんとなく居ついてしまった保育士「阪奈麻子(ハンナアサコ)」。子供達のなかにいつの間にか紛れ込んでいた、不思議な雰囲気を持つ金髪少年「レオン」との心温まる交流物語。宗教の違いに基づく食事の準備が大変なのだそうです。なるほど。

■ Lift me to the Moon
体調不良者の変わりに急なリリーフで軌道エレベーターに乗り込むこととなった派遣アテンダント「犬井麦穂(いぬいむぎほ)」。初配乗ながらも優秀な働きを見せる彼女ですが、なにやら秘めた事情を抱えている模様。一番ミステリ色の濃い話かもしれません。

■ あなたに捧げる、この腕を
機械の腕を使ったアーマート(ArmArt)の先駆者「鹿沼里径(かぬまさとみ)」。あるクライアント男性と良い雰囲気になりかけるなかで、芸術家としての彼女が見せる我侭とは。第一話ヒロインの京野歩も、成長した姿を見せてくれます。

■ The Lifestyles of Of Human-Beings At Spaces
軌道エレベーターを営む巨大企業CANTEC。CEO「マダム・ハービンジャー」直々に声を掛けられた「歌島美旗(うたじまみき)」が、相棒の「ギルバート・マッキンデール」とともに、宇宙空間での食料事情改善に奔走します。明言されていませんが、名前の通りある人物の娘と息子のようです。

■ 宇宙で一番丈夫な糸 -The Ladies who have amazing skills at 2030.
CANTEC社CEO「アリッサ・ハービンジャー」若かりし日のお話し。究極の繊維材料に関する技術を出し渋る青年「バンブラスキ・エイブラハム・チーズヘッド」との直接交渉に挑んだ彼女が見せる粘り腰の交渉術。文庫書き下ろし作品だそうです。

どれも爽やかな後味を残す快作ばかりです。地に足ついた感じの雰囲気がよいですね。SF的設定の妙と物語としての面白さが絶妙にブレンドされていて、とても私好みな作品集でした。

評価:★★★★★

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