2011年4月28日木曜日

テルマエ・ロマエ III(ヤマザキマリ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

風呂ネタとしてはちょっとマンネリ気味かなと思っていたのですが、史実の背景を微妙に絡めた感じで、なかなか面白い展開になってきました。



基本的にハドリアヌスお抱えのポジションかと思っていたのですが、そういう訳でもないのですね。本巻ではハドリアヌスの直接の出番は一度もなし。彼が死んでからもちゃんと話は続いていきそうです。

次期皇帝になるはずのアントニヌス・ピウスらしい人も、最後でちらっと出てきていました。順番からいけば次は彼のために働くことになりそうなものですが、ちょっと地味目なポジションの人なので、一つ飛ばしということでしょうか。

そういう意味では、歴代皇帝の中でも人気のあるマルクス・アウレリウスが次のパトロンとなるのは、漫画的に納得の展開と言えます。若き日のマルクス、いかにも誠実そうな人柄がらしい感じですね。

史実をもとにしたエピソードを交えながらも、あくまで主眼は風呂になっているのが、ぶれてない感じで素敵です。仕事馬鹿なルシウスの魅力は、政治劇の舞台では生きないでしょうから。

ラスト2話では、いつも教わることばかりだったルシウスが初めて教える側にまわります。言葉がなくても何となく通じてしまうというのは、共通した土台のある技術者通しだと結構ありそうなことです。

映画化も決定したようで、もう乗りに乗っているという印象です。これから動いていきそうな歴史イベントをどのように風呂の話題につなげていくのか。馬鹿馬鹿しいほどの強引さに今後も期待です。

評価:★★★★☆

2011年4月27日水曜日

蓮華君の不幸な夏休み 2(海原育人) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

前回は空気だった親友達が本格的に参戦。ラストのバトルはちょっとあっけなかった気もしますが、本巻全体がクライマックスへのネタ仕込と言う位置づけになるのでしょう。最終巻が俄然楽しみになってきました。1巻のレビューはこちらです。



晴久の親友「七海那美(ななみなみ)」と「赤間大地(あかまだいち)」が本格参戦です。しかし、タトゥーに絡んでくるとは思っていましたが、那美のこういう絡み方はちょっと予想外です。尻軽すぎませんかね(^^;

同居して色気を振りまいている「亘理翔子(わたりしょうこ)」さんとどちらがヒロインになるのかと思っていましたが、二人してそんな気配を微塵も見せないどころか、むしろフラグをばきばき叩き潰している印象が・・・

ヤンキーな切れ者という晴久のキャラは、ますます良い感じになってきました。顔と言葉以外のすべてがいいやつという、男性読者にとって非常に好感を持ちやすい設定。料理上手なところもポイント高しです。

ただ、前巻と比べるとバトルそのものは少々薄めな印象だったでしょうか。主人公がチートすぎるんじゃないかと思っていたら、筆者さんがあとがきで言い訳していました。なるほどー。

意味ありげに登場しながらまだ能力も明らかになっていない「戸浪文吾(となみぶんご)」の存在など、最終巻へ向けての仕込みは万全といったところでしょうか。楽しみです。

評価:★★★☆☆

関連レビュー:
蓮華君の不幸な夏休み〈1〉(海原育人)

2011年4月26日火曜日

万能鑑定士Qの事件簿IX(松岡圭祐) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

今回のテーマはダ・ヴィンチのモナ・リザです。ちょっといつもと違った展開の裏には、相変わらずのぶっとんだ仕掛けが隠されています。初めて小笠原君を格好良いと思ったかも。



モナ・リザという超メジャーな題材なので、専門的には色々あるのかもしれませんが、素人の私としては大変楽しめました。それにしても相変わらずの薀蓄量ですが、どこまで信じてよいのか毎回微妙に悩まされたり。

いつものシリーズとはちょっと変わった展開がとても良かったですね。いくらなんでも胡散臭すぎるなあと感じていたところも実は伏線だったり、ミステリとしてかなり良い感じの仕掛けだったと思います。

正直なところ、シリーズ開始当初は結構メインキャラのイメージにぶれが感じられるというか、ファジーな設定を筆者の力量で強引にごまかしているというところが無きにしも非ずという印象でした。

それが巻を重ねるにつれて、徐々に個性がはっきりしてきたように感じられます。特に今回は小笠原君がいい働きをしていましたね。彼の性格って、キャラ絵のイメージに引っ張られてるんじゃないかという気もするんですが(^^;

巻末の予告によると、次回は20歳時の莉子の過去話となるようです。あいかわらず二ヶ月に1冊の驚異的な刊行ペース。どこまで続くのでしょうかね。凄いなぁ・・・

評価:★★★★☆

2011年4月25日月曜日

研修医純情物語 - 先生と呼ばないで(川渕圭一) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

30歳で医学部に入学しなおし、37歳で研修医となった筆者の自伝的小説です。医療現場の実態など勉強になるところもありますが、なにより読み物として面白いです。それだけ筆者の経験が面白いものだったということなのでしょう。



フィクションと現実半々といったところでしょうか。30代にして医者を志した筆者の動機については実際に読んでいただくとして、本書のみどころはやはり「年増の新人研修医」という存在の特異さにあるかと思います。

といっても、年配であることからくるハンデといったものはそれほど感じさせません。体力がないとか就職先がないとか色々自虐的なことは書かれていますが、あまり悲壮感漂うものでもありませんし。

本書の特徴を決定付けているのは、筆者の「大人の余裕」ではないかと思います。医療現場の不合理さを語るにもどこか一歩引いたようなスタンスのため、なんとなく客観性を感じさせて、すんなりと腑に落ちる気がするのです。

川渕氏のプロフィールを検索してみたところ、本文中の京都の大学は京都大学で、東京の大学は東京大学のことのようです。ぼかして書いてあるのはなぜなのでしょうか。嫌味な印象を避けるためかもしれませんね。

本書は筆者の実体験をもとにした複数のエピソードから構成されていますが、これがエッセイでなくちゃんと面白い小説になっている点こそ、私がもっとも評価したいところです。

医療の現場を知るという意味で、医学部志望の方や入院患者の関係者の方などにも本作品は貴重だと思いますが、単に面白い本が読みたいという向きにも自信を持ってお勧めできる一冊かと思います。

評価:★★★☆☆

2011年4月23日土曜日

香菜里屋を知っていますか(北森鴻) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

ビアバー香菜里屋を舞台にしたミステリ短編集第4弾にして、シリーズ最終作です。ラストに相応しい常連達のエピソードが綴られていき、鳥肌が立ちそうなフィナーレになるかと思いましたが、肝心の最終話だけはあまり好みに合わなかったかもしれません・・・



「花の下にて春死なむ」から始まる本シリーズは、特に愛着を持っておられるファンも多いのではないかと思います。なんといっても香菜里屋のマスター「工藤」による料理メニューの数々が素晴らしい。

私が北森作品のなかで一番好きなのは「メイン・ディッシュ」なのですが、こちらも料理を主題にしたもの。なんとなく料理の薀蓄が語られるだけでテンションが上がるといいますか、そういうところが私のつぼみたいです。

シリーズの完結として位置づけられる本書ですが、各エピソードの内容も最終巻に相応しいものとなっています。とりわけ私が印象に残ったのは2話目の「プレジール」。ああ、あの人が・・・と感慨が溢れるようでした。

そして、ラスト直前の第4話では「香菜里屋」という店名の由来も明かされ、非常に盛り上がる気持ちで第5話を向かえたのですが・・・うーん、この最終話はちょっと私には合わなかったです。

ネタバレになりそうなので一応反転で。

私は「蓮杖那智」シリーズも「冬狐堂」シリーズも大好きなのですけれど、二人がコラボする作品は少々苦手なのです。ちょっときつめのスーパーウーマン二人が、お互いに認め合ってる風なのがなんとなく胡散臭く感じられて・・・

で、この最終話は二人ともが登場、というよりゲストで無くメインを掻っ攫ってしまっているのがとても受け入れがたかったのです。工藤が不在という状況はまだよいにしても、せめて香月なり常連達なりによる解決をみせてほしかったかなと。

上記の理由から、個人的には少し残念な感じのする終幕でしたが、同じ理由から本書が好きと感じられる方もたくさんおられるでしょうね。なにしろ北森ファンとしては出し惜しみの無い、オールキャストの展開ですから。

ネタバレ終わり

ちなみに本書には未完の「双獣記」という作品があわせて収録されていますが、こちらのほうは私は読んでいません。熱心なファンであれば読むべきなのでしょうけれど、なんだか切なくなってしまいそうなので。

最終巻としては若干の不満を感じたところもありますが、その不満も愛着故ということで、シリーズ全体を通してみれば非常に質の高い読書体験を提供していただけたと思っています。筆者には感謝の念に堪えません。

北森作品の読み残しも本書で最後になるでしょうか。さびしい限りです。

評価:★★☆☆☆

関連作品:



2011年4月21日木曜日

サクラコ・アトミカ(犬村小六) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

泣かせる話でくるのかと思っていましたが、どちらかというとトリッキーな構成で、むしろミステリファンが喜びそうな作品といえるかもしれません。設定一発に見事にしてやられました。



サクラコの美しさが世界を滅ぼす。

世界一の美少女とたたえられる阿岐ヶ原王家の「サクラコ」内親王。その美しさに目をつけた悪の科学者「ディドル・オルガ」は、原子力兵器の原動力としてサクラコを誘拐します。

ちょっと聞いただけでは訳が分からないと思いますが、要するにサクラコの美しさを原子力エネルギーに変換しようということです。生粋のSF読みには耐えられなさそうなアバウト設定ですが、これが本書のテイストだと思ってください。

童話のような世界観だと思ってもらうとしっくりくるでしょうか。ただ、恋仲になる最強の牢番「ナギ」とサクラコのベロチューとかもあったりして、あまり子供に勧められるものではないかもしれません。

「とある飛空士への追憶」のようなぐっと情緒に訴えるところはありませんが、なかなか凝った仕掛けも施されているので、ミステリテイストが好きな方にはかなりはまるのではないかと思います。

初の星海社FICTIONS作品。紙質が同レーベルの売りになっているようですが、ペラペラで安っぽい感じがして、個人的にはあまり好きではありません。ただ、本書に関しては片山若子さんによるオールカラーの美麗イラストが実に良い感じです。

深窓の令嬢というよりやんちゃな感じのサクラコのキャラは良かったのですが、なぜか感情移入はしにくかった気がします。ストーリー自体には十分満足させてもらいましたが、キャラ萌えも泣かせもないので、筆者の過去の作品が好きな方には、もしかしたら評価が分かれるかもしれません。

評価:★★★☆☆

2011年4月20日水曜日

大聖堂(ケン・フォレット) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

十二世紀のイングランドを舞台にした歴史大河小説。史実がたくさんちりばめられているにもかかわらず、学問的な堅苦しさは全くありません。興奮感溢れる良質なエンターテインメントとなっています。





タイトルが「大聖堂」となっていて、実際に大聖堂の建築は話の重要な位置を占めるのですが、それだけを軸にストーリーが進むわけではありません。

ノルマンディー朝の後継者争いが泥沼化することにより、無政府状態に突入した時代を扱っています。そんな混乱の中、王権争い、シャーリング伯爵位を巡る陰謀、教会内における権力闘争などが平行して展開していきます。

純粋な歴史ものを期待すると、少々期待はずれに終わるかもしれません。Wikipediaによると、登場人物の大部分はフィクションですし、セックス描写もかなり激しかったりで、かなりエンターテインメント色の強い構成となっています。

3冊1800ページにおよぶ大著であるにもかかわらず、伏線の張り方とその改修の仕方は見事といわざるを得ません。冒頭で提示された謎が明らかになるのは最後の最後。50年を超えるスケールの壮大な物語となっています。

以下ネタバレ感想につき、既読の方のみ反転してください。

前半の主人公「トム・ビルダー」が格好良すぎますね。その彼がまさか死んでしまうとは思いませんでした。トムとくらべると、後を継いだ義理の息子「ジャック」は、若干主人公としての魅力に劣るような気はします。ただ、そこを「アリエナ」とのセットで補うというのも、実にお見事な手際です。

アリエナは、あんな薄幸のヒロインでありながら驚くほど感情移入しにくいキャラクターでした。きつい性格はともかく、毛深いとか乳がでかすぎるとか、ひどい描写ばかりです。こういう生々しいところを受け入れられるかどうかで、本書への評価も大きく変わってきそうに思います。

ネタバレ終わり。

トムと並ぶもう一人の主人公「フィリップ」。「ローマ人の物語」でネガキャンされていたりした影響もあって、キリスト教に対する印象は個人的にあまり良いものではないのですが、フィリップのような聖職者特有の潔癖さというのは、実に美しいです。キリスト教のこういう側面は結構好きかもしれません。

唯一不満なのはマーサの不遇っぷり。義理の兄であるジャックを慕っていたのだから、アリエナとひと悶着あってもよさそうなのに、子供の世話まで喜んで引き受けたりして。

いったい彼女は何のために出てきたのかと思わずにいられませんでしたが、どうやら続編では彼女の子孫も出てくるとのこと。独り身のままではなかったようなので安心しました。もしかして、私と同じような不満を持った人から抗議でもあったのでしょうか。

歴史を扱っているにも関わらず非常にエンターテインメイント色が強いため、好みの分かれるところはあるかもしれません。私としては、ご都合主義に過ぎる展開も含めてとても楽しめました。

ただあまりに分厚いので、続巻に手を出すかどうかは今のところちょっと微妙です。面白かったけど疲れました。その分、読了後の達成感もひとしおなのですけれどね。

評価:★★★★☆