2010年5月31日月曜日

『告白』(湊かなえ) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

評判に違わぬ作品でした。全編モノローグ形式にも関わらず、終始突き放したようなクールな語り口が印象的です。



読み始めた途端、これは違うなと感じました。我が子を亡くしたにも関わらず口調は極めて冷静。悲しんでいないわけではないのに、口から出る台詞はあくまで淡々として客観的。凄みがあります。

女性教師の独白だけでここまで話を引っ張れるものなのかと感心しました。なにしろ場面転換なしで、壇上から延々と生徒に喋りつづけているわけですから。

1章を読み終えて、「あれ、短編集だったの?」と思ってしまいました。あまりにも綺麗に終わっていたので。もともと1章の「聖職者」だけで、小説推理新人賞を獲得していたんですね。とても納得です。2章が別の登場人物により引き継がれて、ちょっと得した気分になりました。

後味が悪いという評判もあるようですが、どうなんでしょうね。私としては溜飲の下がるラストだと思いましたが。基本ほのぼの好きとはいえ、やはりミステリ読みの端くれとして免疫が鍛えられているからかもしれません。

ただ、ラストはともかく後半数話の展開はちょっとご都合主義な感じもしました。作品の完成度だけなら1章のみの方が高かったように思いますが、エンターテインメントとして考えると難しいところなのかもしれません。いずれにしろ、かなり高いレベルでのお話。文章力、構成力、ミステリ的仕掛けのどれをとっても一級の名作です。

評価:★★★★☆

2010年5月30日日曜日

『高杉さん家のおべんとう 1』(柳原 望) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

なかなか就職が決まらない31歳のポスドク「高杉温巳(はるみ)」が、母親に死なれた12歳の従妹「久留里(くるり)」を引き取ることになった。会話にも困る二人をつないだのは「おべんとう」。なんというか、かなりツボでした。とてもほのぼのして、ちょっぴり恋の味付けも入ったハートフルコメディです。



主人公がポスドクですからね。ちょっと情けない感じのキャラ立ては、ヒロインが強いととても映えます。久留里は無口で無愛想で趣味は倹約という、ちょっぴり残念な美少女中学生。周りから浮いてていじめられ歴も長いけれど、全然めげず我関せずの強い女の子です。歳の離れた従兄妹というシチュエーションがいいですね。私は叔父×姪とかの微妙な設定が大好物なんです。

脇キャラもいい味出してます。一番のお気に入りは久留里の同級生「香山なつ希」ちゃん。クラス女子のリーダ的存在。接し方がなにかと高圧的。でも美少女大好き。ちらちら久留里の様子を気にするさまは、それなんてツンデレ?って感じです。
あたしがイジメ権握ってる限りエグイことはさせないから
といって、率先していじめ役に励む「姉御」は超かっこいー。

ちなみになつ希のお母さん「玲子」は、温巳と同級生で研究仲間です。お母さんも娘以上の男前。この二人の過去話も気になりますね。一人ぐるぐる回ってる小坂さんもかわいいです。しかし、久留里のライバル役が果たして彼女に務まるのでしょうか・・・

この漫画は本屋さんをぶらぶら歩いてて見つけました。あのお店、ディスプレイのチョイスがかなり私と相性いいんです。電子書籍が騒がれる昨今、いまどき店頭で買う必要なんてあるの?とのたまう方もおられますが、これがあるから書店散策はやめられません。

評価:★★★★★

2010年5月29日土曜日

『鯨の王』(藤崎慎吾) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

でっかい鯨が超能力(?)で人を襲う話です。襲うといっても、もともと悪いのは人間の方なので、仕返しされるといった方がいいでしょうか。人間たちの思惑がちっぽけに感じる、痛快なお話でした。



主人公の鯨学者「須藤秀弘」、最悪です。妻にも娘にも逃げられた50近い巨漢のおっさん。学者としてはそれなりに優秀ですが、酒飲みで素行も悪く、異端の研究により学会でも爪弾きもの。若い娘と二人で乗った狭い潜水艇内で平気で小便するし。ヒロインの「ホノカ」も流石にこれにはデレないだろうと思っていましたが、さてどうなったでしょう。

鯨関係ですから、環境問題と絡めて読むこともできるかもしれません。そういう文脈でなら、どちらかというと鯨擁護的な作品ということになるのでしょうか。でも、あんまりそういう裏側を考えて読む話ではないですね。単純にエンターテインメントとして面白いし、それで充分だと思います。

須藤を担ぎ出した民間企業や、海底でちょっといけないことをしていたアメリカの軍事機関や、鯨を聖なる者と崇める宗教団体や、そういうものの一切が小賢しく感じられる「鯨の王」の無双っぷりを楽しんでみてください。ちょっと捕鯨反対派に共感しちゃいそうになりましたよ。

評価:★★★☆☆

2010年5月28日金曜日

『ローマ人の物語 (2) - ローマは一日にして成らず(下)』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

まさに「ローマは一日にして成らず」という内容でした。数百年の時をかけた土台作りですからね。上手に負けることが重要なようです。



マケドニアのアレクサンダー大王といい、アテネのペリクレスといい、偉人が倒れると一気に政体が傾くわけですが、ローマでは代わりの人材がいくらでも立つのが強みですね。その強さの元になるのが元老院なのだということでしょう。

選挙によらず選ばれ、終身の身分である元老院。純粋な民主主義者には腐敗の温床とも見られそうですが、ころころ移り変わらない機関の重要性を、今の私たちは某政権を迎えて身に染みているはずです。昔の自民党は唯一の政権与党として、それに近い働きを担っていたのかもしれません。

今回もサムニウム族や天才ピュロスなど強敵との戦いがあって面白かったですが、次からはいよいよハンニバルやカエサルが登場する時代になってきます。楽しみで仕方ないです。

評価:★★★☆☆

2010年5月27日木曜日

『環境保護運動はどこが間違っているのか?』(槌田 敦) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

牛乳パックをリサイクルしている人、原発はエコだと信じている人、温暖化の原因はCO2だと疑っていない人は、一度この本を読んでみましょう。環境運動の裏に潜む自己満足や欺瞞を鋭くあばいてくれる、現代人の必読書です。



この本、もとは1992年に出版されたものです。それが1999年に文庫化し、さらに2007年に新書として再出版されました。大学時代にゼミの先生に勧められて読んで、感銘を受けたことを良く覚えています。今回書店でたまたま見かけて、久しぶりに手に取ってみました。

牛乳パックのリサイクル、ただの自己満足です。再生紙への加工は普通紙を作るよりコストがかかります。コストがかかるというのは設備投資やエネルギーが余分にかかるということ。要するに、地球全体で見ればかえって余計に環境を汚染することになるのです。

設備にも資源やエネルギーが消費されることを忘れてはいけません。原発も単体で見ればクリーンに見えますが、その準備段階で大量の化石燃料を消費します。石油一本の方がはるかに効率的。では、なぜ原子力発電はなくならないのか。それで儲けている人がいるからです。あと、プルトニウム。原発には欺瞞しか存在しません。

二酸化炭素による温暖化、確かにもっともらしく聞こえます。でも、温暖化の何が悪いのか。温暖化で海面は下がりません。空気中に含む水蒸気量が多くなり、それが循環して南極で氷になります。そもそもCO2濃度が上がり始める前からすでに温暖化は始まっていたとするデータもあります。地球の歴史上、温暖化という時期を向かえるのは珍しいことではないと知っておくべきです。

そういえば鳩○イニシアチブとかありました(笑)。いえ、笑い事じゃないですけれどね。

筆者は本書の再発行にあたり内容を吟味した結果、いくつかの注はつけたもののほぼそのままの形で出版することに決めたそうです。つまり状況は20年近くの間ほぼ変わっていないということです。無知と自己満足と欺瞞からくる悪循環。直接に利害が絡む点が見えにくいのが、環境問題の難しいところなのでしょう。

あえて本書の難点をあげれば、やはり事例などが少々古くなっている点です。ただ、要所には注もつけられていますので、安心して読んでいただいて問題ないかと思います。本書の内容は多くの方に知ってもらいたいです。

評価:★★★★☆

2010年5月26日水曜日

『ぐるぐる猿と歌う鳥』(加納朋子) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

作品の雰囲気や後味がよく、とても面白かったです。ミステリとしても上質で、流石だなと唸らされました。佳品。



ミステリーランドから待望のノベルス化です。あのシリーズは好きな作者さんがたくさん書いていらっしゃるのだけど、ちょっとお値段高めの上に子供向けということもあって、いい大人としてはなかなか手が出しにくかったりします。本作は主人公が小学生ですが、もちろん大人でも十分に楽しめます。

やんちゃな小学生の「高見森(たかみしん)」君が大変いいキャラです。わんぱくな割りには孤立しがちな、悩めるような悩んでないようなお年頃の小学5年生。方言がすごい掟やぶりなヒロイン「あや」ちゃんや、謎多き名探偵「パック」に「竹本」家の5人兄弟たちまで、みんないい子たちなのでとても健やかな読書感を与えてくれます。

ミステリとしてもそこは加納氏のこと、しっかり堪能させていただきました。あっと驚くというよりも、これはこのための伏線だったのかと思わず感心してしまう熟練技です。

あえて難点を探せば、いくら社宅つながりとはいえちょっとご都合が過ぎる感なきにしもあらずですが、その辺は重要な伏線とも絡んでくるのでやむを得ないところでしょう。主人公達が高校生くらいになった続編を読んでみたいですね。

評価:★★★★☆

2010年5月25日火曜日

『ローマ人の物語 (1) - ローマは一日にして成らず(上) 』(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

巻数が多いので手を出しかねていましたが、教養底上げキャンペーンということでチャレンジしてみることにしました。週にⅠ、2冊のペースでじっくり読んでいきたいと思います。



学生時代に最初の2冊だけ読んだ記憶があります。一巻はまだ華やかな偉人が登場しないので、当時は続けて読むモチベーションが上がらなかったのでしょう。

今回改めて読み直してみると、本題から少しそれたギリシアに関する記述がおもしろかったです。仲の悪いアテネとスパルタが手を結ぶくだりは、ちょっと涙腺が緩みました。

それにしても、ローマにしろギリシアにしろ、政体がコロコロ変わりますね。我々日本の民主主義もせいぜい百数十年の歴史しかないわけですから、まだ今後なにが起きるか分かりません。まぁ、当時と現在とでは状況がずいぶん違いますが。

具体的には食料生産力と軍事面における過度の火力が色々な抑止力になっているというところでしょうか。とはいえ、歴史を知ると現在の状況もどうしても危うく感じられてしまいますね。

今回はギリシア史が中途半端に終わっているので、次のペリクレス時代が楽しみです。高校時代が懐かしいですね。山川の世界史教科書を片手に読み進めていきたいと思います。



評価:★★☆☆☆