2011年10月31日月曜日
正捕手の篠原さん(千羽カモメ)
スポーツものということもあって結構人を選ぶかもしれませんが、私にはとても面白かったです。ショートショート形式の連作コメディが、そのネタも含めて受け入れられるかどうかというところで、評価が分かれるのではないかと思います。
男装した女の子がエースピッチャーの高校野球小説です。そこそこ強い学校という設定ですが、スポコン要素は薄いというより皆無なので、その辺りを期待するとがっかりするかもしれません。ラブ30%、コメ60%、野球薀蓄10%という感じでしょうか。
なんといっても本書最大の特徴は、ショートショート形式で話が進んでいくことです。見開き2ページ完結の話をテンポ良くつむぎ上げていく手腕はなかなかお見事。ただし、最後の数十ページはショートショートの形を取らず、連作短編のラストとしてよい感じに落ちをつけてくれています。
ただ、ショートショートというのは分量的にどうしてもネタが薄くなりがちなので、そこのところはかなり好みが分かれるかもしれません。何だか落ちてないような微妙な話もあったりするのですが、そういうところも含めた筆者のセンスが、私にはかなりフィットしました。
登場人物はテンプレといえばテンプレなのですが、どことなく突き抜けないブレーキのかかった性格付けが好印象です。特に私のお気に入りは、主人公の幼馴染「深見月夜(ふかみつくよ)」。悪戯好きのお嬢様キャラなのですが、たまに凄く弱キャラになるのがなんとも良い味を出しています。
あえて弱点を挙げるとすれば、男子野球部を舞台としているため、女性キャラを増やしにくそうなところでしょうか。スタメン9人のうち4人は名前しか出てこない可哀想な扱いです。でも、逆に無理して話を大きくしないところが、コンパクトにまとまった小気味良い後味を生んでるようにも思えます。
やはり前提として野球の知識がそこそこあったほうが楽しめると思います。その点はハードルが高いともいえますが、4コマ漫画的なゆるふわコメディが好きな方には、きっと楽しんでいただけるのではないかと思います。
評価:★★★★☆
2011年10月20日木曜日
要介護探偵の事件簿(中山七里)
コミカル基調なのに油断してるとズシンとくる、筆者の本領が遺憾なく発揮されたミステリ短編集です。さよならドビュッシーのスピンアウト作品ですが、非常に読みやすいので中山七里さん最初の一冊としてもお勧めです。
まさに表紙絵の通り、車椅子の元気爺さん「香月玄太郎(こうづきげんたろう)」と、彼に翻弄されながらも要所では強いところを見せるベテラン介護士「綴喜みち子(つづきみちこ)」がメインキャラクターとなります。
「さよならドビュッシー」、「おやすみラフマニノフ」と続く「岬洋介」シリーズのスピンオフ作品ではありますが、前作のネタバレなどは慎重に回避されていますし、むしろ本書だけを読んだほうが純粋に楽しめる部分もあるかもしれません。
介護をテーマの一つとしつつも、玄太郎のキャラクターのせいか全然湿っぽさは感じさせません。5編のミステリもそれぞれに趣向が凝らされていて、痛快な読後感を与えてくれる作品集となっています。
当然「さよならドビュッシー」のキャラクターたちも登場するのですが、基本的には重要な役割を見せることは無いので、その点既読者には物足りなく感じられるところもあるかもしれません。ただ、岬洋介にはちょこっと活躍の場もあるので、彼のファンならぜひ抑えておくべきでしょう。
介護士のみち子さんは傍観者役といいいますか、それほど重要な役割を果たしているわけではありませんが、前作で何だか怖い印象のあった彼女の裏側が見られらのは良かったです。
以下、さよならドビュッシーと本作両方のネタバレがちょっぴり入るので、既読者のみ反転でお願いします。
本書だけ読むか、2作品を合わせて読むかでこれほど印象の変わる作品も珍しいでしょうね。特に本作ラスト、玄太郎爺さんのエンディングは結構胸にずっしり来てしまいました。
ルシアも登場していますが、さすがに顔見世程度の役割になっています。彼女は結構好きなキャラなので、今後もうまいこと登場させてほしいのですが、あの前作のの後とあってはやはり色々難しいのでしょうか。本書程度の顔見世逆に物足りなさが増幅された感も・・・
ネタバレ終わり。
とにかく、この作者さんの文章は私的にとてもフィーリングのあう部分が多いです。登場人物の価値観にしろ文体にしろ、なんとなく抑制が効いているというか、色々な意味でバランス感覚が優れているように感じられます。
前作との関係を抜きにしても純粋に一話ごとの質が高いので、ドビュッシー既読者もそうでない方も安心して手に取っていただきたい作品です。
評価:★★★★☆
関連書籍:
2011年10月9日日曜日
シューメーカーの足音(本城雅人)
イギリス流のビスポーク(注文靴)を題材にしながらも、粋というよりはちょっぴりドロドロした雰囲気のミステリ長編です。それでも革靴好きの方ならにやりとする場面が多いかと思います。はっきりしない話の輪郭が徐々に鮮明になっていく構成に加え、収束もなかなかお見事でした。
日本人ながらイギリスの本場に看板を構えるスター職人「斎藤良一」と、日本で安価に良い靴を作り続ける若手職人「榎本智也」。この二人の視点がどのように交差していくのか。はっきりした事件が起こるというよりは何がミステリなのかがミステリという感じの、なかなか私好みな展開でした。
最近は円高ということもあって、私もイギリスの既成靴を注文することが結構あります。それだけに本書のテーマに興味を惹かれて手に取ったのですが、文章がわかりやすい上に専門的な説明も非常に丁寧なので、革靴に関心の無い方でも問題なく楽しめるかと思います。
ただ、舞台の半分がイギリスで靴の薀蓄も盛りだくさんなのにも関わらず、話の雰囲気自体はなぜかコテコテの日本風という感じです。メインのストーリー自体が良くできていたので、私はさほど気にはなりませんでしたが、本書に何を求めるかで多少評価も変わってくるかもしれません。
本書の最大の魅力は、なんといっても斎藤のナルシストっぷりでしょう。まさに酸いも甘いも噛み分けるダークヒーローといった趣き。それと対比される形での、草食系な智也君の造詣も良かったと思いますが、人間としての魅力では完敗ですね。
サブキャラでは、なんといっても男装の見習い職人「永井美樹」ちゃんが、テンプレ気味と承知の上でやはり素晴らしいです。ただ、(ネタバレなので既読の方のみ反転でお願いします)彼女の彼氏の正体についてはあと一工夫ほしかった気がしないでもありません。ミスディレクションという意図はわかるものの、あれだけ思わせぶりなキャラですから、せめてもう少し意外性のある演出がほしかった気がします(ネタバレ終わり)。
多少ご都合主義な点も見られはしましたが、徐々に詳細が明らかになっていく構成から思わぬ形での収束、そして味のあるエピローグと、全体的になかなか質の高いエンターテインメント小説に仕上がっていると思います。
靴好きな方よりは、全く関心の無い方のほうがむしろ楽しめる一冊かもしれません。
評価:★★★☆☆
2011年10月5日水曜日
ブラウン神父の童心(G・K・チェスタトン)
神父といっても堅苦しい雰囲気は全然ありません。冴えない小男のどこか伝法な語り口が作品全体をシニカルな雰囲気にしています。人間の機微を細かに描く一方で世界に名を轟かす名探偵や大怪盗も登場するという、なかなかサービス精神旺盛な一冊です。
ブラウン神父といえば、紹介文によればシャーロック・ホームズとも並び称されるとのことで、ミステリファンの間では比較的よく知られたメジャーな名探偵かと思います。私も高校時代に学校の図書館で読んだ記憶がありますが、全く内容が残っていなかったので今回の再読です。
朴訥な神父が穏やかに事件を切り捨てる話だったかな、などと思っていたら全然違いました。これは訳者のお手柄だと思うのですが、神父の言い回しがなんとも蓮っ葉というかやさぐれ僧侶という感じで、それが作品全体を通した皮相的なムードにぴったりはまっています。
チェスタトンといえばトリック創案に定評のある作家だそうですが、個人的にはその部分はそれほどでもないかなと感じました。割とありふれたというか、無理のある仕掛けを強引な論理でこじつけている印象が強いです。
もっとも、それはあらゆる名探偵ものにいえることなので、その点に特に不満はありません。むしろそうした無理気味なロジックを演出する意外性のある展開が素晴らしかったです。特に一話目と二話目。そう持ってくるの?と唖然とさせられる、涼宮ハルヒも真っ青な驚愕の転がしっぷりです。
ただ、最初のインパクトが強すぎたせいか、中盤以降はちょっとだれ気味な感じが無きにしも非ずです。各話とも導入部分が少し堅めというか、物語に入り込みにくい感じなので、読み進めるのにはちょっぴり苦労しました。翻訳ミステリになれていない方だと特にしんどく感じるかもしれません。
とはいえ、それぞれの作品の質自体はかなり高いです。12話を一気に読破するよりは毎日少しずつ読み進めるほうが、中だるみも無くじっくり作品世界を堪能できるのではないかと思います。たった30ページに詰め込まれた絶妙の手管をじっくり鑑賞してください。
評価:★★★☆☆
2011年9月14日水曜日
夜の光(坂木 司)
高校生の少年少女4名を主役とした青春ミステリです。読み始めはちょっときついなと思いましたが、彼らの素性が明らかになるにつれ、徐々に感情移入させられていきます。世間や周囲と慎重に距離を取る彼らの青臭くさが、なんとも好ましい一冊です。
裏書にある「スパイ」とか「ミッション」とかいう言葉はあまり気にしないほうが良いと思います。自分の本音を隠すための擬態をそのように称しているのですね。
筆者らしい設定とは思いつつも、最初は何とも気取っているように感じられて、ちょっぴり抵抗を感じました。しかし、これが読み進めていくうちに徐々に心地良いものに変わっていくのだから不思議です。
なんといっても、4人の少年少女たちのキャラクターが素敵です。人当たりが良かったりチャラかったりする彼らの裏に隠れた事情が、一人につき一話ずつ順に明かされていきます。
その事情というか真相というかは、小説的に見れば必ずしもインパクトのあるものではありませんが、むしろその普通さが彼らの仲間内で見せる素っ気なさと相まって、作品全体を非常に良い雰囲気に仕立てあげています。
一応ミステリ要素もしっかり入っていますが、ストーリーを引き立てるための材料程度の扱いなので、そちら方面はあまり期待しすぎないほうが良いかもしれません。
終わり方もちょっとしんみりしつつ未来を見据えた感じで、とても良かったと思います。あまり派手でない、素っ気ない空気の作品が好きな方にはお勧めです。ミステリというよりは青春小説の佳作だと思います。
評価:★★★☆☆
裏書にある「スパイ」とか「ミッション」とかいう言葉はあまり気にしないほうが良いと思います。自分の本音を隠すための擬態をそのように称しているのですね。
筆者らしい設定とは思いつつも、最初は何とも気取っているように感じられて、ちょっぴり抵抗を感じました。しかし、これが読み進めていくうちに徐々に心地良いものに変わっていくのだから不思議です。
なんといっても、4人の少年少女たちのキャラクターが素敵です。人当たりが良かったりチャラかったりする彼らの裏に隠れた事情が、一人につき一話ずつ順に明かされていきます。
その事情というか真相というかは、小説的に見れば必ずしもインパクトのあるものではありませんが、むしろその普通さが彼らの仲間内で見せる素っ気なさと相まって、作品全体を非常に良い雰囲気に仕立てあげています。
一応ミステリ要素もしっかり入っていますが、ストーリーを引き立てるための材料程度の扱いなので、そちら方面はあまり期待しすぎないほうが良いかもしれません。
終わり方もちょっとしんみりしつつ未来を見据えた感じで、とても良かったと思います。あまり派手でない、素っ気ない空気の作品が好きな方にはお勧めです。ミステリというよりは青春小説の佳作だと思います。
評価:★★★☆☆
2011年8月9日火曜日
人面屋敷の惨劇(石持浅海)
筆者お得意の特殊な状況設定には感心したものの、惨劇というタイトルは大げさだなぁと思いながら読んでいたら、後半ちょっとやられました。ミステリとしての驚きはさほどでもありませんが、小気味良くまとまった手堅い一冊だと思います。
石持作品は、作者名を伏せられても余裕で特定できそうな独特の間合いというかスタイルがありますね。本書もクールでさりげない描写の中にこれでもかと伏線がねじ込まれていて、いかにも石持節といった感じです。
10年前に起きた幼児誘拐事件の被害者会メンバー6人が、ある情報をもとに「人面屋敷」の主人「土佐」を糾弾しようと乗り込みます。そして緊迫の状態が続く中、ある人物の登場によって作品の景色はガラッと反転します。
もともとユニークな設定だと思いながら読み進めていましたが、序盤からいきなりこれ?な驚愕展開にはびっくりするやら鳥肌が立つやら。読者を翻弄する筆者の演出にただ追従あるのみです。
見返しの筆者コメントから、本書はいわゆる「館もの」を趣向したものかと思っていましたが、それにしてはこざっぱりした舞台設定です。せいぜい「一軒家もの」といったところでしょうか。
ただ、そのコメントをよく読み返してみれば、「石持館」といいつつも「館もの」とは明言されていないようにも読み取れますね。もしかしてこれもミスディレクションだったのかもしれません。
後半はちょっぴりホラーっぽい展開も見せます。なにしろいつものごとく理詰めにきっちり話が展開していただけに、すっかり油断してしまいました。あのシーンは真夜中に読んだらちょっとやばかったかもしれません。
舞台設定や作品の雰囲気には大いに満足したものの、ミステリとしてみれば若干物足りない面もあったかもしれません。以下、ネタバレも含むので反転でお願いします。
最初の土佐殺しが全然謎でもなんでもないことを考えると、真の事件発生は随分遅かったといえますね。「亜衣」の登場は確かに鮮烈でしたが、藤田殺しが起きるまでですでに2/3を費やしていたため、謎解きという意味ではちょっと物足りなく感じました。
「秀一」については一人だけ最後のほうまで詳細が明かされていなかったので、何かあるのかなとは思っていましたが、散々引っ張った割にはそれほど驚くべき正体でもなかったように思います。
それに、せっかくいわくありげなお屋敷を舞台にしているのに、隠し扉やらなんやらの建物そのものに関わる謎が何もなかったのも少し残念でした。6つあった部屋のうち4つが結局閉ざされたままだったというのも、ちょっと空間的なスケールを小さくしているような気が。
以上のようにちょっと物足りないかなという点もなくはありませんでしたが、物語の最初から最後まできっちり計算されたつくりになっているためか、読後の不満感はそれほどありません。何よりあの絵のシーンはかなりショッキングですし、エンディングのまとめ方も良い感じだったのではと思います。
ミステリ的なインパクトはやや弱く感じられたものの、アクセントの効いた状況転換を繰り返しながら手堅くまとめあげるストーリー構成はさすがの一言です。石持ファンであれば文句なしにお勧めできる作品といえるでしょう。
評価:★★★☆☆
石持作品は、作者名を伏せられても余裕で特定できそうな独特の間合いというかスタイルがありますね。本書もクールでさりげない描写の中にこれでもかと伏線がねじ込まれていて、いかにも石持節といった感じです。
10年前に起きた幼児誘拐事件の被害者会メンバー6人が、ある情報をもとに「人面屋敷」の主人「土佐」を糾弾しようと乗り込みます。そして緊迫の状態が続く中、ある人物の登場によって作品の景色はガラッと反転します。
もともとユニークな設定だと思いながら読み進めていましたが、序盤からいきなりこれ?な驚愕展開にはびっくりするやら鳥肌が立つやら。読者を翻弄する筆者の演出にただ追従あるのみです。
見返しの筆者コメントから、本書はいわゆる「館もの」を趣向したものかと思っていましたが、それにしてはこざっぱりした舞台設定です。せいぜい「一軒家もの」といったところでしょうか。
ただ、そのコメントをよく読み返してみれば、「石持館」といいつつも「館もの」とは明言されていないようにも読み取れますね。もしかしてこれもミスディレクションだったのかもしれません。
後半はちょっぴりホラーっぽい展開も見せます。なにしろいつものごとく理詰めにきっちり話が展開していただけに、すっかり油断してしまいました。あのシーンは真夜中に読んだらちょっとやばかったかもしれません。
舞台設定や作品の雰囲気には大いに満足したものの、ミステリとしてみれば若干物足りない面もあったかもしれません。以下、ネタバレも含むので反転でお願いします。
最初の土佐殺しが全然謎でもなんでもないことを考えると、真の事件発生は随分遅かったといえますね。「亜衣」の登場は確かに鮮烈でしたが、藤田殺しが起きるまでですでに2/3を費やしていたため、謎解きという意味ではちょっと物足りなく感じました。
「秀一」については一人だけ最後のほうまで詳細が明かされていなかったので、何かあるのかなとは思っていましたが、散々引っ張った割にはそれほど驚くべき正体でもなかったように思います。
それに、せっかくいわくありげなお屋敷を舞台にしているのに、隠し扉やらなんやらの建物そのものに関わる謎が何もなかったのも少し残念でした。6つあった部屋のうち4つが結局閉ざされたままだったというのも、ちょっと空間的なスケールを小さくしているような気が。
以上のようにちょっと物足りないかなという点もなくはありませんでしたが、物語の最初から最後まできっちり計算されたつくりになっているためか、読後の不満感はそれほどありません。何よりあの絵のシーンはかなりショッキングですし、エンディングのまとめ方も良い感じだったのではと思います。
ミステリ的なインパクトはやや弱く感じられたものの、アクセントの効いた状況転換を繰り返しながら手堅くまとめあげるストーリー構成はさすがの一言です。石持ファンであれば文句なしにお勧めできる作品といえるでしょう。
評価:★★★☆☆
2011年8月7日日曜日
東京湾岸奪還プロジェクト ブレイクスルー・トライアル2(伊園 旬)
あらすじが面白そうだったので読んでみましたが、前作同様あまり私には合わない感じでした。しかし、本作単体なら突込みどころは多いものの、シリーズとしてはなかなか楽しみな展開も見せつつあります。
タイトルからして「あぶない刑事」や「踊る大捜査線」のような派手めの展開をちょっぴり期待していたのですが、その点については案の定肩透かしでした。とはいえ、誘拐された少女達のために攻略困難なミッションに挑むというシチュエーション自体は悪くなかったと思います。
構成も工夫されていて、侵入ミッションと救出ミッションの間に「子供たち」という捕らえられた側視点の章をはさんでいるのは、なかなかアクセントが効いてよかったです。誘拐された二人の少女のキャラクターもグッド。準レギュラー化しそうなので楽しみなところです。
このように長所といえる点もなくはないのですが、全般的に見るとやはり残念な印象のほうが強く残ってしまいました。以下、個人的に不満に思えた点を3つ挙げてみます。
1.主人公たちのSUGEEEE感が薄い
侵入シーンにおけるディテールの描写は本シリーズにおける長所の一つだと思うのですが、説明が丁寧な分だけ不可能っぽさも減じてしまっているような気がします。そのため、高度な技術を持つ主人公たちがあまり格好良く見えません。本作ではストーリー上も主人交たちは翻弄されっぱなしなので、カタルシスを感じられる部分が皆無でした。
2.文体がいまいちクールじゃない
これはあくまで個人的な受け取り方の問題かと思うのですが、説明的な文章が多い割りにそのシーンの情景が思い浮かびにくいように感じられました。本作でデビュー3作目ということだそうなので、こなれていないというよりは、これが筆者の個性ということになるのでしょうか。あくまで好みの問題ですが、もう少し行間で読ませるような文章のほうが個人的には嬉しいです。
3.「お約束」破りとご都合主義な展開
以下ネタバレも含むので、既読の方のみ反転でお願いします。
今回新たに仲間となる「瀬戸」や、「茅乃」の友人「沙璃亜」の登場があまりにも唐突に感じられました。沙璃亜は茅乃のとばっちりで一緒に誘拐されましたが、いくらなんでも巻き込まれた裏には別の理由があるのだろうとずっと疑いながら読んでいました。で、結果はそのままスルー。
これでは、あまりに主人公たちの負債が大きすぎるように思います。一方的に巻き込まれただけの沙璃亜の家族たちが、丹羽を全く責めようとしないのも不可解です。最後まで読んでみて、瀬戸を新キャラとして出したかったためにこういう形を取ったのだなとはわかりましたが、それであればなおのこと「雨降って地固まる」的なドラマを組み込んで欲しかったです。
茅乃が海中コンドミニアムについてたまたま知っていたこと、ゲーム機が全く気付かれなかったこと、コンドミニアムの納品先が「縁(ゆかり)」の会社だったことなど、ご都合主義な展開もかなり多いです。特に最後の点については、単に縁に出番を与えたかっただけなのではないかと勘ぐってしまいます。
ラストについてももやもやの残る収束となってしまいました。正直、最後の門脇たちのアクションシーンは、茅野が注意深いことを考えれば蛇足というか独り相撲な感が強いですし、あの女の意図についても全く見えないため、非常にすっきりしない読後感となってしまいました。
このように、本作だけでみれば厳しい評価とせざるを得ない内容だったと思いますが・・・続刊がでたら再チャレンジしちゃいそうな気もしています。というのも、新キャラの瀬戸や<<彼>>が実にいい味を出していたためです。
門脇との対比で行くと、パートナーは丹羽より瀬戸のほうがより映えるような気がします。また、<<彼>>に目をつけられたおかげで、今後の舞台がよりスケールアップしそうな点にも期待です。続刊の展開次第では、本書の評価もまた違ったものになってくるかもしれません。
評価:★☆☆☆☆
関連レビュー:
『ブレイクスルー・トライアル』(伊園 旬)
タイトルからして「あぶない刑事」や「踊る大捜査線」のような派手めの展開をちょっぴり期待していたのですが、その点については案の定肩透かしでした。とはいえ、誘拐された少女達のために攻略困難なミッションに挑むというシチュエーション自体は悪くなかったと思います。
構成も工夫されていて、侵入ミッションと救出ミッションの間に「子供たち」という捕らえられた側視点の章をはさんでいるのは、なかなかアクセントが効いてよかったです。誘拐された二人の少女のキャラクターもグッド。準レギュラー化しそうなので楽しみなところです。
このように長所といえる点もなくはないのですが、全般的に見るとやはり残念な印象のほうが強く残ってしまいました。以下、個人的に不満に思えた点を3つ挙げてみます。
1.主人公たちのSUGEEEE感が薄い
侵入シーンにおけるディテールの描写は本シリーズにおける長所の一つだと思うのですが、説明が丁寧な分だけ不可能っぽさも減じてしまっているような気がします。そのため、高度な技術を持つ主人公たちがあまり格好良く見えません。本作ではストーリー上も主人交たちは翻弄されっぱなしなので、カタルシスを感じられる部分が皆無でした。
2.文体がいまいちクールじゃない
これはあくまで個人的な受け取り方の問題かと思うのですが、説明的な文章が多い割りにそのシーンの情景が思い浮かびにくいように感じられました。本作でデビュー3作目ということだそうなので、こなれていないというよりは、これが筆者の個性ということになるのでしょうか。あくまで好みの問題ですが、もう少し行間で読ませるような文章のほうが個人的には嬉しいです。
3.「お約束」破りとご都合主義な展開
以下ネタバレも含むので、既読の方のみ反転でお願いします。
今回新たに仲間となる「瀬戸」や、「茅乃」の友人「沙璃亜」の登場があまりにも唐突に感じられました。沙璃亜は茅乃のとばっちりで一緒に誘拐されましたが、いくらなんでも巻き込まれた裏には別の理由があるのだろうとずっと疑いながら読んでいました。で、結果はそのままスルー。
これでは、あまりに主人公たちの負債が大きすぎるように思います。一方的に巻き込まれただけの沙璃亜の家族たちが、丹羽を全く責めようとしないのも不可解です。最後まで読んでみて、瀬戸を新キャラとして出したかったためにこういう形を取ったのだなとはわかりましたが、それであればなおのこと「雨降って地固まる」的なドラマを組み込んで欲しかったです。
茅乃が海中コンドミニアムについてたまたま知っていたこと、ゲーム機が全く気付かれなかったこと、コンドミニアムの納品先が「縁(ゆかり)」の会社だったことなど、ご都合主義な展開もかなり多いです。特に最後の点については、単に縁に出番を与えたかっただけなのではないかと勘ぐってしまいます。
ラストについてももやもやの残る収束となってしまいました。正直、最後の門脇たちのアクションシーンは、茅野が注意深いことを考えれば蛇足というか独り相撲な感が強いですし、あの女の意図についても全く見えないため、非常にすっきりしない読後感となってしまいました。
このように、本作だけでみれば厳しい評価とせざるを得ない内容だったと思いますが・・・続刊がでたら再チャレンジしちゃいそうな気もしています。というのも、新キャラの瀬戸や<<彼>>が実にいい味を出していたためです。
門脇との対比で行くと、パートナーは丹羽より瀬戸のほうがより映えるような気がします。また、<<彼>>に目をつけられたおかげで、今後の舞台がよりスケールアップしそうな点にも期待です。続刊の展開次第では、本書の評価もまた違ったものになってくるかもしれません。
評価:★☆☆☆☆
関連レビュー:
『ブレイクスルー・トライアル』(伊園 旬)
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