2011年2月4日金曜日

ローマ人の物語〈35〉最後の努力〈上〉(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

国防体制を完全に立て直すディオクレティアヌス帝ですが、一方でローマ的なものがどんどん失われていきます。官僚の肥大化、税収不足、統制経済。現代にも通じる諸問題には考えさせられることばかりです。



ディオクレティアヌス帝は、筆者によると最初に意図してキリスト教を弾圧した皇帝だとか。それまでにもネロ帝による弾圧などはありましたが、確固たる施策として継続的に行われるのはこれが初めてとのこと。

もっとも筆者の視点からは、キリスト教徒に対するスタンスは一貫して冷ややかなんですけどね。出てくる事例を見れば、あれもしたくないこれもしたくないばかり。後世で喧伝されるような不当な仕打ちとばかりもいえないようです。

外敵の襲来により軍人皇帝が次々と入れ替わる末期的な状況。それを立て直したディオクレティアヌス帝の有能さは疑うべくもありません。しかし、一方で開明的、先進的な「ローマ」気質を完全に変質させたのも彼の手によるもの。

軍事費の増大や官僚組織の肥大化、税収不足による経済統制などはまだしも、職業の世襲制はかなりきつい感じですね。しかし、筆者の論調にディオクレティアヌスを責める雰囲気はありません。

結局のところ、引き金となったのはカラカラ帝による「アントニヌス勅令」ガリエヌス帝による元老院と軍隊の分離。ディオクレティアヌス在位の状況下においては、やむをえない施策ばかりだったのでしょう。

ディオクレティアヌスは、歴代皇帝で初めて生きたままに帝位を譲った人物なのだそうです。この辺りの引き際の見事さも、彼の公人としての性格を強くあらわしています。ただし、禅譲が穏やかだったかというとそうでもないようで・・・。

誰一人として予想していなかったことが起こったのであった。(P213)

思わせぶりな次巻への引きは、いったい何を意味するのでしょうか。

評価:★★★★☆

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