2011年2月16日水曜日

死をもちて赦されん(ピーター・トレメイン) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

フィデルマシリーズの邦訳第6弾ですが、原著では本作が長編一作目となるので、オリジナルに忠実に読むのであれば、本書から入るのもありかと思います。なんといっても見所はフィデルマとエイダルフの出会い。当初のギクシャクした間柄から徐々に打ち解けていく様子がなんとも素敵です。



邦訳のうち3作までは読んでいましたが、人間関係でわからないところも多かったので、本来のシリーズ第一弾たる本書はまさに待ちに待ったといったところです。ただし翻訳の順番に関しては、訳者の思惑が正しかったのかなと認めざるを得ないというのが本書を読み終えての感想です。理由は二点。

一点目は、あとがきにもある通り本書の舞台がアイルランドではないこと。本シリーズ最大の特色は、古代アイルランドの世相を描いているところにあると思います。ブリテン(イギリス)を舞台にローマ派とケルト派の両キリスト教派が激論をぶつける様子は、歴史的観点からは大変興味深いのですが、シリーズの特徴が十全に発揮されているとは言いがたいでしょう。

二点目は、言いにくいですがミステリそのものとしての質の問題。フィデルマシリーズの長編については2作を既読ですが、真相の意外性やサスペンス的な展開の妙については、両作とも本書より明らかに勝っていたように感じられます。また、王妹たるフィデルマの権威も、外国が舞台とあってはあまり活かしきれていません。

もっとも、フィデルマとエイダルフが出会うエピソードは、やはり良いです。二人の関係が友人の延長にすぎないのか、あるいは恋愛模様に発展する色合いを見せるのかが、本書を読むことで明らかになったように思います。どっちなんだというところは、ご自身でお確かめいただいたほうが良いでしょう。

本書における「教会会議(シノド)」とは実際に歴史上存在するイベントなのだそうです(ウィットビー教会会議-Wikipedia参照)。史実における大イベントの裏でうごめいていた事件という形で、フィデルマたちの活躍が描かれています。しかし、登場人物のどこまでがフィクションでどこまでが実在の人物なのでしょう。

ケルト派とローマ派ということで、フィデルマとエイダルフはいわばロミオとジュリエット的な立場にあります。そのため、この二人が本格的にコイバナを展開することはないのかと思っていたのですが、その辺りの展開についてのヒントも本書のなかにあるようですね。本書を念頭に既刊も再読してみたいなと思いました。

評価:★★☆☆☆

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