2010年12月18日土曜日

火星ダーク・バラード(上田早夕里) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

なんともやさしい暗黒(ノワール)小説。濡れ衣を着せられ追われる身となる39歳の刑事「水島」と、事件の鍵を握る15歳の少女「アデリーン」。第4回小松左京賞受賞作品の大幅改稿版。火星を舞台にしたハードボイルドSFの傑作です。



受賞作バージョンのほうは賞を取るためのカスタマイズがかなり入っていたそうです。文庫化にあたり筆者が本来やりたかった方向へ戻すための大幅改稿とのこと。そのあたりの事情や相違点については、こちらで筆者自身の手により詳しく説明されています。

私は本来、明るくきっぱりオチのついた話のほうが好きなのですけれど、本作についてはノワール色が強くなっているという文庫版以外の雰囲気は考えにくいですね。単行本版の30歳の水島とか想像しにくいですし、ラストの締めも甘くはないけどずっしり心に残ります。

本作品で一番格好いいのは水島ですが、小説的に一番美味しい味をだしているのは殺人鬼の「ジョエル・タニ」だと思います。ただ、彼はその濃いキャラクターにもかかわらず最初のほうと最後のほうにしか登場しないので、本書だけ読むと若干の物足りなさを感じるかもしれません。

そういう意味では、「小鳥の墓」(「魚舟・獣舟」所収)のほうも是非押さえていただきたいところです。ジョエルが主人公の中編小説となっています。しかし、ジョエルと璃奈って・・・あれ?記憶が曖昧なので読み返してみないと。

話の作り的にはもったいないと思われる箇所がいくつかあるようにも思えます。実に良いキャラのバディ「神月璃奈」がキルヒアイスなみに即効死んでしまいますし、アデリーンの能力が後半は普通の超能力になっているように見えますし、シャーミアンは割を食いすぎてる気がしますし。全般的に女性キャラにつめたい気が・・・(^^;

色々突っ込む余地はあるのかもしれませんが、それらを全て些事としてしまうのが本書全体を流れる雰囲気。とりわけ主人公の捜査官「水島」の苛烈さと複雑さは、男でも惚れるほど格好良いです。本作品の底を流れる冬の川のように冷たい清清しさが、なんともいえない絶妙の後味を残してくれます。

私にとっては「良い」というより「好き」な作品。それは同じく筆者の手による「華竜の宮」についても同様だったのですけれど、ロマンス要素がわかりやすい分、こちらの方がちょっとだけ好きかもしれません。

評価:★★★★★

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