2010年12月15日水曜日

ローマ人の物語〈31〉終わりの始まり〈下〉(塩野七生) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

賢帝の世紀が終わり混乱の時代に突入。冒頭いきなり5人もの肖像を見せられどんな乱世になるかと思いましたが、帝位争い自体はそれなりの形で収束します。問題はその後です。



帝位争いをする各人への筆者の評価は厳しすぎるようにも思えますが、大帝国ローマを支える資質というのはやはりそれなりのものが必要とされるのでしょうか。トライアヌスやハドリアヌスのようなレベルでないと支えきれない政体自体、無理があるのかもしれません。

暗殺された先帝コモドゥスの後釜として推挙された「ペルティナクス」は、叩き上げの軍人でなんと解放奴隷の息子です。ローマの実力主義ここに極まれりといった感じですが、彼の出自自体への反発はなかったようです。近衛長官「レトー」の私欲から来る造反により、わずか3ヶ月で暗殺。

筆者はレトーへの配慮を欠いた結果だと厳しいですが、正直その言いようはあまりに酷な気がします。どう考えても悪いのは短慮なレトー。コモドゥスにより荒らされた国の建て直しに真摯かつ公正に臨もうとした結果だと思うので。でも、古くから血で血を洗う闘争が続けられているローマでは、そのような慎重さも絶対不可欠な資質ということなのでしょう。

大義名分のある後継者をなくし、時代は4人の軍人による権力争いへと突入します。最終的な勝利を収めた「セプティミウス」にあって、他の3人になかったのは「容赦の無さ」だったらしいです。特筆すべきは4人ともが優れた実績を持つ人格者であった点。私利の強く出ていた日本の戦国時代とはかなり様相が違います。

他の3人がローマ人らしさにこだわる隙をついた格好になった「セプティミウス」。彼への私の印象は、小野不由美さん「十二国記」に登場する泰王「驍宗(ぎょうそう)」です。本人に悪意はなく、実力もありカリスマも備えるけれど、あまりに果断なやりかたに徐々に周りとの齟齬が出てくるような・・・

全ては良かれと思って行った軍人への待遇向上がローマの空気を一変することになります。専門軍人の台頭によるきな臭い時代の到来。そして時代は彼の息子にして次期皇帝、悪名高き「カラカラ」に引き継がれていくことになります。

評価:★★★☆☆

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