2011年4月20日水曜日

大聖堂(ケン・フォレット) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

十二世紀のイングランドを舞台にした歴史大河小説。史実がたくさんちりばめられているにもかかわらず、学問的な堅苦しさは全くありません。興奮感溢れる良質なエンターテインメントとなっています。





タイトルが「大聖堂」となっていて、実際に大聖堂の建築は話の重要な位置を占めるのですが、それだけを軸にストーリーが進むわけではありません。

ノルマンディー朝の後継者争いが泥沼化することにより、無政府状態に突入した時代を扱っています。そんな混乱の中、王権争い、シャーリング伯爵位を巡る陰謀、教会内における権力闘争などが平行して展開していきます。

純粋な歴史ものを期待すると、少々期待はずれに終わるかもしれません。Wikipediaによると、登場人物の大部分はフィクションですし、セックス描写もかなり激しかったりで、かなりエンターテインメント色の強い構成となっています。

3冊1800ページにおよぶ大著であるにもかかわらず、伏線の張り方とその改修の仕方は見事といわざるを得ません。冒頭で提示された謎が明らかになるのは最後の最後。50年を超えるスケールの壮大な物語となっています。

以下ネタバレ感想につき、既読の方のみ反転してください。

前半の主人公「トム・ビルダー」が格好良すぎますね。その彼がまさか死んでしまうとは思いませんでした。トムとくらべると、後を継いだ義理の息子「ジャック」は、若干主人公としての魅力に劣るような気はします。ただ、そこを「アリエナ」とのセットで補うというのも、実にお見事な手際です。

アリエナは、あんな薄幸のヒロインでありながら驚くほど感情移入しにくいキャラクターでした。きつい性格はともかく、毛深いとか乳がでかすぎるとか、ひどい描写ばかりです。こういう生々しいところを受け入れられるかどうかで、本書への評価も大きく変わってきそうに思います。

ネタバレ終わり。

トムと並ぶもう一人の主人公「フィリップ」。「ローマ人の物語」でネガキャンされていたりした影響もあって、キリスト教に対する印象は個人的にあまり良いものではないのですが、フィリップのような聖職者特有の潔癖さというのは、実に美しいです。キリスト教のこういう側面は結構好きかもしれません。

唯一不満なのはマーサの不遇っぷり。義理の兄であるジャックを慕っていたのだから、アリエナとひと悶着あってもよさそうなのに、子供の世話まで喜んで引き受けたりして。

いったい彼女は何のために出てきたのかと思わずにいられませんでしたが、どうやら続編では彼女の子孫も出てくるとのこと。独り身のままではなかったようなので安心しました。もしかして、私と同じような不満を持った人から抗議でもあったのでしょうか。

歴史を扱っているにも関わらず非常にエンターテインメイント色が強いため、好みの分かれるところはあるかもしれません。私としては、ご都合主義に過ぎる展開も含めてとても楽しめました。

ただあまりに分厚いので、続巻に手を出すかどうかは今のところちょっと微妙です。面白かったけど疲れました。その分、読了後の達成感もひとしおなのですけれどね。

評価:★★★★☆

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