2011年7月20日水曜日

エッジウェア卿の死(アガサ・クリスティー) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

取り立てて大胆な仕掛けはありませんが、序盤から丹念に仕込まれた伏線が徐々につまびらかになっていく、何とも正攻法な構成の佳作です。エッジウェア卿夫人のいかにも大女優らしい壊れっぷり(超偏見)も素敵でした。



ヘイスティングズの登場するポアロものは、ドタバタ感が強くて高く評価しにくい作品が多い印象だったのですが、本書についてはすんなり楽しめたように思います。ヘイスティングズ自身のキャラクターについては嫌いではないので、彼が道化にならない作品が私的に好ましく感じられるようです。

福島正実さんの翻訳とも相性が良かったのかもしれません。ポアロの自信過剰なところが可愛く思えましたし、ヘイスティングズについてもただの間抜けでなくいかにも誠実な人柄だと感じられました。間抜け役はヘイスティングズの代わりにジャップ警部がしっかり果たしてくれてますし(笑)

冒頭から述べられている通り、本作品においてポアロはちょっとした失敗をします。その構図自体は前に読んだ「邪悪の家」と同様なのですけれど、前作では本当にポアロがへぼ探偵にしか見えなかったのに対し、本作ではそれなりにきっちり格好を付けてくれます。

本作には魅力的な女性がたくさん登場しますが、やはりヒロイン格となるのはエッジウェア卿未亡人にして女優の「ジェーン・ウィルキンスン」といって良いでしょうね。教養があるのかないのか、見たまま天然なのか実は計算高いのか、いかにも懐をのぞかせない胡散臭さが、実は事件の謎に大きく関わってきます。

以下ネタバレが入るので反転でお願いします。

ポアロシリーズについてはかなり勧善懲悪というか、良い人が報われ悪い人が裁かれるという印象があったので「カーロッタ・アダムズ」が殺されたのにはびっくりしました。それまでは彼女が真のヒロインなのかなと思いながら読んでいたので。

先ほどヘイスティングズがあまり間抜けでなかったと書きましたが、実際には「ロナルド・マシュー」殺害の引き金を引く痛恨の失敗をしていますね。ただ、今回は彼自身の過失とは思えない状況だったので、ヘイスティングズファンの私としてもこの扱いに不満はありません(笑)。

怪しい人物がころころ入れ替わる終盤のめまぐるしい展開は、いかにもクリスティらしくてよかったと思います。本作でとりわけ感心したのは伏線の仕込み方です。特にジェーンがカーロッタの人物模写を喜んでいた背景には思わず膝を打ちました。彼女の性格からして喜ぶのは妙だなと思っていたので。

多少の不満点もないでもありません。意味ありげだった執事が結局空気のままフェードアウトしたり、肝心のクライマックスでなぜか最重要人物のジェーンが立ち会っていなかったり。まぁ、ミスディレクションということはわかるのですが、ちょっと道具の無駄遣いかなという感じはしました。

以上、ネタバレ終わり。

というように多少の不満点はあったものの、総じて良くできたミステリだったように思います。それにやはり翻訳の雰囲気が大きかったでしょうか。私がヘイスティングズものに不満を持つのは、彼が無下に扱われることに我慢ならないからだと改めて気づかされてしまいました(笑)

評価:★★★☆☆

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