2011年8月7日日曜日

東京湾岸奪還プロジェクト ブレイクスルー・トライアル2(伊園 旬) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

あらすじが面白そうだったので読んでみましたが、前作同様あまり私には合わない感じでした。しかし、本作単体なら突込みどころは多いものの、シリーズとしてはなかなか楽しみな展開も見せつつあります。



タイトルからして「あぶない刑事」や「踊る大捜査線」のような派手めの展開をちょっぴり期待していたのですが、その点については案の定肩透かしでした。とはいえ、誘拐された少女達のために攻略困難なミッションに挑むというシチュエーション自体は悪くなかったと思います。

構成も工夫されていて、侵入ミッションと救出ミッションの間に「子供たち」という捕らえられた側視点の章をはさんでいるのは、なかなかアクセントが効いてよかったです。誘拐された二人の少女のキャラクターもグッド。準レギュラー化しそうなので楽しみなところです。

このように長所といえる点もなくはないのですが、全般的に見るとやはり残念な印象のほうが強く残ってしまいました。以下、個人的に不満に思えた点を3つ挙げてみます。

1.主人公たちのSUGEEEE感が薄い

侵入シーンにおけるディテールの描写は本シリーズにおける長所の一つだと思うのですが、説明が丁寧な分だけ不可能っぽさも減じてしまっているような気がします。そのため、高度な技術を持つ主人公たちがあまり格好良く見えません。本作ではストーリー上も主人交たちは翻弄されっぱなしなので、カタルシスを感じられる部分が皆無でした。

2.文体がいまいちクールじゃない

これはあくまで個人的な受け取り方の問題かと思うのですが、説明的な文章が多い割りにそのシーンの情景が思い浮かびにくいように感じられました。本作でデビュー3作目ということだそうなので、こなれていないというよりは、これが筆者の個性ということになるのでしょうか。あくまで好みの問題ですが、もう少し行間で読ませるような文章のほうが個人的には嬉しいです。

3.「お約束」破りとご都合主義な展開

以下ネタバレも含むので、既読の方のみ反転でお願いします。


今回新たに仲間となる「瀬戸」や、「茅乃」の友人「沙璃亜」の登場があまりにも唐突に感じられました。沙璃亜は茅乃のとばっちりで一緒に誘拐されましたが、いくらなんでも巻き込まれた裏には別の理由があるのだろうとずっと疑いながら読んでいました。で、結果はそのままスルー。

これでは、あまりに主人公たちの負債が大きすぎるように思います。一方的に巻き込まれただけの沙璃亜の家族たちが、丹羽を全く責めようとしないのも不可解です。最後まで読んでみて、瀬戸を新キャラとして出したかったためにこういう形を取ったのだなとはわかりましたが、それであればなおのこと「雨降って地固まる」的なドラマを組み込んで欲しかったです。

茅乃が海中コンドミニアムについてたまたま知っていたこと、ゲーム機が全く気付かれなかったこと、コンドミニアムの納品先が「縁(ゆかり)」の会社だったことなど、ご都合主義な展開もかなり多いです。特に最後の点については、単に縁に出番を与えたかっただけなのではないかと勘ぐってしまいます。


ラストについてももやもやの残る収束となってしまいました。正直、最後の門脇たちのアクションシーンは、茅野が注意深いことを考えれば蛇足というか独り相撲な感が強いですし、あの女の意図についても全く見えないため、非常にすっきりしない読後感となってしまいました。

このように、本作だけでみれば厳しい評価とせざるを得ない内容だったと思いますが・・・続刊がでたら再チャレンジしちゃいそうな気もしています。というのも、新キャラの瀬戸や<<彼>>が実にいい味を出していたためです。

門脇との対比で行くと、パートナーは丹羽より瀬戸のほうがより映えるような気がします。また、<<彼>>に目をつけられたおかげで、今後の舞台がよりスケールアップしそうな点にも期待です。続刊の展開次第では、本書の評価もまた違ったものになってくるかもしれません。

評価:★☆☆☆☆

関連レビュー:
『ブレイクスルー・トライアル』(伊園 旬)

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