2011年10月9日日曜日

シューメーカーの足音(本城雅人) このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク

イギリス流のビスポーク(注文靴)を題材にしながらも、粋というよりはちょっぴりドロドロした雰囲気のミステリ長編です。それでも革靴好きの方ならにやりとする場面が多いかと思います。はっきりしない話の輪郭が徐々に鮮明になっていく構成に加え、収束もなかなかお見事でした。


日本人ながらイギリスの本場に看板を構えるスター職人「斎藤良一」と、日本で安価に良い靴を作り続ける若手職人「榎本智也」。この二人の視点がどのように交差していくのか。はっきりした事件が起こるというよりは何がミステリなのかがミステリという感じの、なかなか私好みな展開でした。

最近は円高ということもあって、私もイギリスの既成靴を注文することが結構あります。それだけに本書のテーマに興味を惹かれて手に取ったのですが、文章がわかりやすい上に専門的な説明も非常に丁寧なので、革靴に関心の無い方でも問題なく楽しめるかと思います。

ただ、舞台の半分がイギリスで靴の薀蓄も盛りだくさんなのにも関わらず、話の雰囲気自体はなぜかコテコテの日本風という感じです。メインのストーリー自体が良くできていたので、私はさほど気にはなりませんでしたが、本書に何を求めるかで多少評価も変わってくるかもしれません。

本書の最大の魅力は、なんといっても斎藤のナルシストっぷりでしょう。まさに酸いも甘いも噛み分けるダークヒーローといった趣き。それと対比される形での、草食系な智也君の造詣も良かったと思いますが、人間としての魅力では完敗ですね。

サブキャラでは、なんといっても男装の見習い職人「永井美樹」ちゃんが、テンプレ気味と承知の上でやはり素晴らしいです。ただ、(ネタバレなので既読の方のみ反転でお願いします)彼女の彼氏の正体についてはあと一工夫ほしかった気がしないでもありません。ミスディレクションという意図はわかるものの、あれだけ思わせぶりなキャラですから、せめてもう少し意外性のある演出がほしかった気がします(ネタバレ終わり)。

多少ご都合主義な点も見られはしましたが、徐々に詳細が明らかになっていく構成から思わぬ形での収束、そして味のあるエピローグと、全体的になかなか質の高いエンターテインメント小説に仕上がっていると思います。

靴好きな方よりは、全く関心の無い方のほうがむしろ楽しめる一冊かもしれません。

評価:★★★☆☆




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